第51話ゾラム領の内乱ー5

トキが盗賊のアジト襲撃中の頃。


ヴァイスとルティとラグは街道沿いに


ゾラム領に向かっていた。




「ねえ?ルティ?なんで先生は2人を残したのかな?」


「コォン?」


「いつもなら残さなかった様な気がするんだよね!


ほら!先生って売られた喧嘩は買うタイプだから!」


「コォン!」


「質問の為に思えるけどなんか違うんだよね…」


「ガアガア!」


「あ!ごめんラグ!起こしちゃったかな?」


「ガアア!」


ラグは首を横に振る。


「なら良かったよ!寝むかったらまだ寝てて良いからね!」


「ガアガア…」


ラグはまたルティの背中で寝始めた。


「こうして思うけどフィルの翻訳は凄いよね!


分からなかったら聞けば翻訳してくれるから!


ラグとかルティとかは先生と仲良いから


行動で分かるけど他は分からないもんね!」


「コォォン!」


ヴァイスはルティとフィルの翻訳能力について


語っていた。




現在ヴァイス達とトキの場所は


大分離れている。


トキは街道から外れて南の盗賊アジトに向かった。


ヴァイスは余裕ある様にルティと話してるが


実際は焦っていた。


ゾラム侯爵に嫁いだ姉がいる中央に反乱軍が襲撃して


命の危険が迫っている。


足も徐々に速くなりトキを気にしながら


早足で向かっていた。


普通の住人の早足とは違いヴァイスはスーサイドで


修行して能力が強化されている。


なので住人の早足よりも感覚的には


自転車の坂道下る速度で速い。


馬車で2日程の掛かる距離もヴァイス達が


能力加減していても急ごうと思えば


2時間程度ですむ。


但し常に前にある空間の風が押されており


場所に着いて停止した途端に今までの風と


停止した場所の前にある風が重なり


前方に圧されて建築物を壊す可能性が高いので


出来る限り抑えている。




ヴァイス達は街道沿いにゾラム領に入った。


本来関所があり不審者の見張り等をしているが


反乱軍のおかげ?で関所に誰もいなかった。


ヴァイスは人のいる気配を感じない関所に


違和感を覚えて関所内部に不法侵入する。


中に入るとさっきまで機能していた形跡がある。


だが慌てた見張り達が動いて消えた様子もなく


突如として人が居なくなった様な静けさ。


靴跡も不思議に残ってる。関所は土足だ。


歩いていた見張りが踵から歩き土踏まずの部分で


跡が消えている。風吹く通路の中でだ。


風抜ける窓ありの廊下に土の跡が吹き消えてなかった。


殺された跡も血の匂いもしない。


驚く事に完全に人が突如として消えた形跡だ。




ヴァイスは関所に半年前に通った事がある。


まだ冒険者ではなく貴族の息子として居た頃に


仕事に生き甲斐を感じる初老の見張りに


眠そうに見張りする若者を見ている。


仕事を確りとこなしている姿を見ていた。


その2人も消えている。


嫌な予感を感じて関所から出るヴァイス。




「ルティ!先生待つより早くゾラム領の中央に


向かった方が良いかも知れない…


関所がおかしい痕跡残してた!


ついさっき…本当についさっきまで機能していた


関所の見張りが消えてるんだ!


嫌な予感する・・・


関所に知らせを貼って早く向かおう!」


「コオォォン!!」


「ガウガ!?」


「ごめんラグ…起こしちゃったね…


でも今は許して欲しい!


急いで向かわないと行けない予定が出来たんだ!


ラグも大丈夫かな?」


「ガアガア!!」ドン!!


任せろとラグは胸を上腕で叩いた。


「ありがとう!ラグ!ならルティ?


僕も背中に乗るから先生への知らせ貼ったら


移動してくれるかな?


重いかもだけど許してね?」


「コオォォン!!」


ルティも任せろと鳴いた。


ヴァイスは関所のべラム側の壁に


トキへの知らせを貼り付かせ


ルティに乗って移動を開始した。


「アイサ姉様・・・どうか無事で・・・」


ゾラム領に白と灰色の影を乗せた黒い影が


颯爽と駆け抜けていく。




ヴァイスが駆け抜けて居た頃


トキは目の前の光景に驚いていた。


「・・・よく乗ってるね?凄いわ・・・


一応危険度がA以上なんだけどね・・・」


子供の順応性に驚いていた。




現在トキは馬車を引くグリフォンのフィルと


牛鬼人のブラッドと行動している。


馬車には19人の盗賊の人質だった大人達。


フィルの背中に3人の子供が乗り


ブラッドの両肩と3本角に5人の子供が乗っている。


行動していた時はブラッドの両肩に2人の子供が


交代で乗り降りしていたが渋り出す子供が現れ


泣き出したりし始めた。


角にも乗ると言い出して危ないと言ったが聞かず


仕方無いなと落下防止の紐を子供とブラッドに付け


5人の子供がブラッドに乗る。


角は40cmあり鋭い。その為カバーを作り


着けさせて安全に乗せている。


頭に3人の子供が乗りバランスを崩したが


慣れてきて今は普通に歩いてる。




頭に平均50Kgの子供3人つまり150Kgが乗る。


両肩にも肘掛け付き椅子も即席で用意して


ブラッドの上半身には約280Kgの負荷が掛かっている。


背中に交差している金属バット抜きにしている。


金属バットを含むと相当な負荷になるが


苦にもせずに笑顔にしているブラッド。




3人の子供はフィルが呼んで背中に居る。


子供が泣いて行動が阻害される前に


考えて乗せたのだろう。


良い仲間を持ったと喜んだ。


フィルの背中にも肘掛け付き椅子を縦に並ばした。


子供の安全を考慮してだがフィルは


動きにくそうにしている。


一番負担が掛かっているからな。


大人19人乗る馬車を引き子供を背中に乗せる。


若干笑顔がひきつってるが見なかった事にしよう。




そういう訳で子供の順応性に驚き呟いていた。


何かあれば直ぐに子供を降ろせる様に


しているが今のところは俺だけで対処している。


小鬼型魔物の群れに狼型魔物の群れ。


様々な魔物が群れなして生活する森。


襲撃する前に居場所を察知して殲滅している。


そうしてると森を抜けて街道を見つけた。




街道を歩いてると関所を見つける。


関所で何か言われるんだろうなと


考えてたが誰も出てこない。


不思議に思ってると壁に紙が貼られている。


剥がして見るとヴァイスからの様だ。


紙とペン用意してるなんてと感心してだが


紙の内容に気持ちが切り替わる。


『先生へ


この関所に誰も居ません。


生活していて突如人が居なくなった様な


痕跡を見掛けました。


暴れた人の跡や殺しの痕跡もありません。


前に見た見張りの2人も居ないので


嫌な予感を感じて先に行きます。


追伸


人質は大丈夫でしたか?


後で盗賊残した理由を聞かせて下さいね。


ヴァイスより』




俺は手紙を見直してフィル達に話して


関所の中を調べた。


ブラッドに子供を降ろして護衛させている。


書類も今日の日付で判押された物や


廊下に土足の跡も残っている。


「王国の反乱は・・・荷担してるのか?」


ヴァイスは気づかなかったようだが


自然に見えて不自然な靴跡が残ってた。


この世界特有の靴じゃない。


波状の線が並び親指の根本に円の靴跡。


地球の靴学校の上履きの跡が残っていた。


「まさか・・・ここに居たのか?


そして消された?連れ去られた?


もしくは実行犯か・・・?」




ここに来てまさかのクラスメイトの影が


姿を表した。


見た限りでは男性物の靴跡。


女性よりも大きな跡で見張りと同じ大きさ。


俺も一時は上履き履いてたが


スーサイドでは直ぐに磨り減り穴が空き


今はこの世界の靴を履いてる。


この世界の靴はブーツ。長靴だ。


彫りの無い靴底である。


俺は俺とヴァイスにはブーツに波を彫らせて


踏ん張れる様にしている。




上履きの痕跡の他にも違う靴跡を見つけた。


こちらは彫りが深く直線に跡が残ってる。


どちらも同じ方向に足跡が残っていた。


「2人組か?魔力の痕跡が微かにある…


転移系のやつか?めんどくさいな…


ヴァイスの嫌な予感とこの2人がゾラムに


向かって重なって無いと良いんだが・・・」


トキは苦虫を噛み潰した様な顔をした。


舌打ちしてその場所を後にして他を調べる。


火が着いたままの食堂、倒れたバケツ、


短い蝋燭で灯る牢屋。全てに人が居ない。




「くそ!2人組もヴァイスもそうだが


火が着きっぱなしじゃないか!


火事でも起こす気なのか?消せよ!!


自然は大事と教わらなかったのか?


関所は石作りだから問題は無いと?


馬鹿が!火事が起これば証拠隠滅にと?


バレてる時点で証拠隠滅にならねぇよ?


近くに人がいなけりゃ大丈夫ってか?


くそがあ!!無駄な事に巻き込まれた!!


単なる反乱軍潰しがややこしく成りやがった!!


とりあえずは人質をどこかに預けて


急ぐしかねえじゃねえか!くそがぁ!!


早馬で関所に届けられた手紙見て慌てなくても


問題無いと思ってたのによぉ!


『領地内の反乱発生!


中央までは数日掛かる模様!


近くの村に少数の応援求む!』だぞ?


ここで怒っても仕方ねえ…


落とし前つけさせてやる!!」


トキは関所を回り火の不始末を終えて


書類関係や状況証拠を見て怒っていた。


主に火の始末に着いてだが・・・。




トキは関所から火元が無いか再度見て回り


確認終えて関所から出た。


若干怒気を纏ってたが人質達の前に現れると


怒気を消して関所から離れる事を告げた。




人質の中には近くの村で生活していた者がおり


そこに人質全員を匿う様に考えて


村に向かった。


「トキ様!後少し東に行けば見えますよ!」


「そうか!やっと村に戻れるな!!」


村の生活していた者は戻れる事に喜ぶ。




俺は全員にその村で暫く居てもらうように


話を終えている。


本当は直ぐに住んでた村や街に戻りたがってたが


俺の依頼を理由に近くの村での生活して


依頼を終えて護衛して戻すと全員に説得した。


反乱について話したが盗賊から


盗み聞きしたのか全員知っていた。


反乱鎮圧まで待つと言われてしまった。


俺達は村の近くまで行くと


思っていた村の姿を見られなかった。




「おい?これはどういう事だ?


何かの冗談なのかな?


俺の嫌がらせにしては最高に


最適な村の姿をしているな!!」




俺達の目の前にある光景に


俺は怒気をまとわせていた。


村は燃えて人が沢山死んでる。


燃えてる村の離れた場所にある関所近くの


地面に人が倒れて赤い跡が残り


まだ温かく流れている。


斬られて追いかけられた跡が残ってた。


襲った集団は遠くに馬に乗って走って去っていく。


ついさっき起こった様だ。




「全員ここで待て!!


フィル!馬車から外すから皆の護衛を!!


ブラッドは子供降ろして俺と来い!!


生きてる奴を探す!


燃えてる家も鎮火するから手伝え!!」


「了解しました!主殿!」「ブモォォ!!」


俺は集団を追わずにフィルから馬車を外して


ブラッドと村に向かい確認を鎮火を行った。




村の火は消したがほとんど燃えてしまった。


なんとか3軒が補修すれば使える程度。


人は赤ちゃんが2人無傷で生きていた。


後は重症が大人3人子供2人。


回復して息が整い始めた。


食料と畑は全て燃やされていた。


麦や野菜、牛、山羊、鶏全て。


動物は直ぐに処理して食べれる様にした。


野菜も食べれる部分は厳選して選び


今日中に食べれば大丈夫だろう。


数日分は俺のストレージから出せば


問題は無いと思う。


問題は死体だ。このまま放置したら腐り


疫病発生やアンデット発生に繋がる。


俺とブラッドで死体を全て集めて火葬した。


老若男女問わず襲撃を行った様だ。


中にはひどい姿の女性や子供がいる。


俺は盗賊のアジトを思い出してしまった…




俺は土魔法で地面を掘り起こした。


真っ赤な地面は消えていく。


村で燃えた中で使える木材を使い


ブラッドと3軒の補修を早く終わらした。




「なあ?ブラッド?これは許されるのか?」


「ブモォォォォ!!!」


「だよな?無理だよな?許されないよな?


魔物でもこんな事はしないよな?


だからさ!反乱軍は早く殲滅して


こんな事起きないように終わらせようと


思ってるが手伝ってくれるか?」


「ブモォォ!!!」


「ありがとうな!!まずはフィル達を呼ぶか・・・」


俺は反乱軍殲滅を決心しフィル達を呼んだ。




この村で生活していた者は泣き嘆いたが


数人が無事なのと俺からの反乱軍潰しを聞き


泣き止み皆を面倒見ると言ってくれた。


まだ瞳には涙が浮かんでいた。


本当は悲しくて潰れそうになってるはずだ。


だがこの村での生活、土地勘を持つ者として


気持ちを切り替えようと決心したのだ。


俺はその人を見て改めて決心した。


完全に終わらしてやると。


俺は人質だった者達と念のため2、3日過ごして


武器や生活用品、雑貨等を渡して


俺とフィルとブラッドは


ゾラム侯爵の領地の各村に向かった。




ヴァイスには悪いが知らぬ姉より


知ってる人達を優先した。


ヴァイスにはルティとラグが付いてるし


鍛えてあるから問題ないと判断しての行動だ。




俺達は村を支えると言ったバルと別れを告げて


歩み…いや走り向かった。


他の村も見て回る為に加減してるが


それでも街道で驚いてる馬車を追い抜き


オートバイの速度で駆け抜けた・・・




やはり他の村も同じ惨状だったので


救いながらも出来なかった村には


黙祷し火葬して回った。


広い領地だったが昼夜問わず


1週間徹夜で各村を回り


一周してバルの村付近に戻った。


昼間にバルの村に向かっている反乱軍らしい


偵察部隊を見付けて後を追い


俺達は拠点の1つを見つける。




近くの森の中に複数のテントがあり


その1つには豪華なテントが場違いにある。


白いテントの中に赤く金色のテントがあった。


「なあ?森にこのテントは無いよな?」


「ダスティさんの部下でニクルさんは


派手好きだからな!でもまあ…無いな!」


「だよな…でも好き勝手して良いとの


許可のおかげで楽しませてもらえるしな!」


「それには感謝だな!反乱軍で良かったよ!」


「王国軍では無理だからな!」


話し声聞いてどうやら反乱軍で間違い無いようだな。




「反乱軍だとしてもな…無いな…


森との場違い感は半端ない・・・


緑の中に赤と金色って篝火で眩しいわ!


だが反乱軍なら潰すだけだがな!」


時間は昼間から夜になり周囲に鳥が鳴く。


俺は拠点潰しの始まりを静かに告げた・・・

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