第20話 去る者追えず
次々と打ち消されていく『魅了』の二文字。
状態異常になっていた生徒達が通常の状態になっていく。
つうっと一筋の汗が背中を伝った。
――よし、ひとまず成功か。
僕は内心のドキドキを悟られないよう口元に笑みを作り、男の顔を見下ろした。
「やはり好きな相手ですもの。『独占』したくなるものでしょう?」
ヴァレッドは立ち上がることも無く、眉間に皺を刻み怪訝な表情を浮かべた。
「何をしたかよく分からないが、ふん、まあいい。なあティーナ、ミラ」
「……」
無言。
さっきまでヴァレッドの取り巻きとして従順にしていたはずのティーナもミラも言葉に反応を示さない。
「……? ティーナ」
ヴァレッドが強めに言葉を掛けた。
その言葉でようやくティーナはこちらを振り向いた。
「どうしたんだ。ほら、いつものように」
いつものように。ヴァレッドはそれで全てが解決するかのように彼女に言った。
恐らくこれが『魅了』の正体。こうして少しずつ仲間を増やしていったに違いない。
――でも今は無駄だ。
「何かしっ……」
返事をしようとしたティーナの声は電波の悪い電話のようにプツンと途中で途切れてしまった。僕と目があったからだ。
「森田もお前たちの仲間に入れてやってくれないか」
そう言ったコイツには彼女の表情の意味など理解出来なかったのだろう。顔をこわばらせたティーナは不憫にも視線を僕からそらした。そして少しの間を置いて、ヴァレッドは想定外の返事をもらうことになる。
「ご」
「?」
「ごめんなさい。それは何のことかしら」
ティーナは言った。その発言に悪意は無い。当然だ、コイツの『魅了』は既に解かれているのだから。純粋に何を言われているのか理解もしていないのだ。
「ごめんなさい」
「っ、じゃあいい。おい、ミラ!」
ヴァレッドは念を押して伝えられたティーナの言葉に一瞬たじろいた。けれどたじろいたものの、すぐ体制を立て直しミラの方へと声をかける。まあ、もちろん結果は見えているのだが。
「え、私? ごめんなさい、何を言っているのかよく分からなくて……」
「!」
「そ、それじゃ私達はこれで」
「ごきげんよう」
そそくさと離れていく二人。
誰からって? もちろんヴァレッドと僕から。
「邪魔をすることは許しません」なんて言って、ヴァレッドを独占するような女、危険すぎて近づきたくもないだろう。普通は引く。何その自己中心的な発言。性格悪っ。まあ、由宇さん曰く、これが悪役令嬢ってやつらしいけど。
どっちかっていうと、実は僕の方が拒絶されているのである。
「どういうことなんだ……」
そんなことなどつゆ知らず、離れていく少女達の姿を呆然と見送る学園の王子様。
……かわいそうに。これはトラウマになるぞ。
僕の仕業とはいえ心が痛む。ああやって拒絶されるって本当辛いよね、僕も経験したから分かるんだなこれが。
独占――モノポリ。
それが僕の新たなスキルだった。
由宇さん曰く、「悪役令嬢だもんね! そういうスキルもアリだ!! 『買収』の派生スキルかな?」とかイキイキと語っていたが、その辺の解説は聞き流したからよく覚えていない。
とりあえず、このスキルを使えば、自分のものに第三者が関われなくなるらしい。自分のものに対するバリアみたいなものか?
ヴァレッドが僕の愛を受け入れ、僕が彼を独占宣言した時点でこのスキルは効果を発し、『魅了』を打ち消したようだ。
「どうして……」
うんうん、ドンマイ。
次第に声が小さくなっていくヴァレッドの肩に僕は優しく手を当てた。
「大丈夫。貴方には、私がついていますわ」
――これにて、悪役令嬢の完成である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます