夢の中
第1話
「翔!早く起きなさい!!遅刻するでしょ!!」
気持ちよく楽しい夢の時間は、今朝もまたお母さんの怒った声で終わらされた。
せっかくあと少しで僕はドラゴンを倒し、本当の勇者になれたところだったのに。
まぁ所詮は夢の中での話なのだけれども。
ほんの少しふてくされながら「はーい」と眠たい目をこすりながら返事をした。
口うるさいお母さんのあれしなさい、これしなさい、という怒った声に適当に相槌を打ちながら用意されていた朝ごはんを口に運ぶ。
甘ったるくて下によく絡み合い強い後味を残していく母親特製のフレンチトーストを、3口で食べ終えれば「もっとゆっくり噛んで食べなさい!!」
というお母さんの雷がまた僕に降りかかった。
キラキラとした真っ赤なトマトに香ばしく焼かれたウインナーなども次々に口に運んで、あっという間に平らげれば、足元に置いておいたカバンをひっつかんで急いで玄関に向かう。
「行ってきます!!!!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
勢いよく家を飛び出せば学校まで走る。
まぁ別に走らなくてもまだ充分間に合うけど、早く学校に行ってゆっくり休憩がしたい。
それに、これ以上家にいてお母さんのうるさい小言を聞いていたくなかったし。
僕だってもう高校一年生。
四月からは16歳になりもう高校二年になるのだ。
いつまでも子供じゃない。
それなのにお母さんもお父さんもいつまでも僕のことを子供扱いする。
それを思い出すだけでなんだかモヤモヤした気持ちが広がったので、とりあえず家の方を振り返り思いっきり舌を出した。
「あっかんべーーーだっ!」
「何してるのこんなとこで、バカじゃないんだから」
なんて朝からイライラしてる僕の肩を叩きながら声をかけてきたのは、幼馴染で同じクラスの杉本だ。
昔から少し人を小馬鹿にした言い方をすることがあるこいつだが、根は優しいのは知っている。
だが!バカと言われて黙っている僕じゃない。
「誰がバカだって?」
「だって、何もないところに向かって怒ってるなんてまるで子供じゃないか」
くすくすと笑いながらそう言ってくる杉本の肩を軽く小突く。
「痛いなぁ」
なんていう杉本に自業自得だなんて言えばそんな難しい言葉もわかるようになったのねっ、なんて言われたのでさらにもう一発小突いた。
僕はもう子供じゃない。
もう僕だって心も体も大人になるんだ。
お母さんもお父さんも、杉本までもが僕のことを子供扱いするもんだから
「ちぇっ」なんて吐き捨てて足元にある石を蹴る。
それが思ったよりも硬く、重かったので足にはずきんっと痺れるような痛みが走り思わず「いったぁぁぁぁぁ!!!」
なんて叫べば無情にも学校のチャイムが朝休みを終えたことを告げる。
つまりこのままだと遅刻だ。
せっかく早く家を出たのに遅刻したのではなんの意味もない。
隣で焦った顔をしている杉本と目を合わせると急いで学校へと走った僕たちなのであった。
「剣野!杉本!またお前らは遅刻か、、、特に剣野!
お前は今月何度目だと思ってるんだ!
全くもう子供でもないんだから時間くらいきちんと守れるようにしろ、、」
朝礼が終わりそれぞれがそれぞれの準備を始める中。
職員室に呼び出された僕たちは担任である今野先生から叱られていた。
僕に至ってはこれは今月に入って5回目である。
だが別に僕だって遅刻したくてしてるんじゃない。
夜だって早く寝てる方なのにそれでも朝が起きれないのだ。
昔から僕は人よりも夢を見る人間だと思っている。
いとこのケンにいちゃんに聞いたらそんなに人は夢を見ないっていってたから、
僕みたいに毎日夢を見るのはきっと珍しいんだと思う。
それも僕の場合、その夢に浸りすぎちゃうんだ。
簡単に言えば、夢を一つの映画や物語のように捉えちゃうってこと。
だからどうしてもその夢に深く入りすぎちゃって気がつくと時間ギリギリになってるんだ。
夢を見ないように見ないようにって思って寝ても見ちゃうから如何しようも無い。
それなのにそれを先生やお母さんたちにいうと言い訳って言われちゃうんだ。
もしかしたら僕の気にしすぎなのかな、、って思うけど。
それでも悪意がないのに、頭ごなしに理由も聞かずに怒られるのは少し辛い。
やっと今野先生の小言が終わって職員室から出れば、隣でこちらを不安げに見ている杉本に頭を下げる。
「ごめん、僕のせいで遅刻して怒られて、、、」
杉本が遅刻して怒られるときは大体が僕のせいだ。
普段は真面目でちゃんとした優等生でクラスのクラス委員までやってる杉本だからこそ僕のせいで遅刻させて変な印象をつけたり怒られたりさせてるのを見ると流石に杉本に少し申し訳なくなる。
僕だって何も無神経なわけではないのだ。
顔を上げれば目を丸くして少し驚いている杉本と目線が合う。
「え、いや、いいけど、、、何急に素直になってんの怖いんだけどw」
思ったよりもひどい返事に少しムッとする。
なんだ怖いって。そんなにおかしいのか。
なんでそんなに笑いを堪えてるんだ。
「お前、、こっちがせっかく素直に誤ってやったのに!!!」
「ははっ、いいよ、そんなの翔らしくないだろ?」
お前はお前らしく気ままに生きりゃいいんじゃない?
ケラケラと笑う杉本に「そうか、?」なんて言えば、
早く教室戻ろう、そう言われて少しモヤモヤしていた心が晴れた気がした。
僕は僕らしく、、か。
「まぁでも、遅刻は減らせよ」
上げて落とすとはまさにこのこと。
せっかく感動していた僕の気持ちはその一言で突き落とされたのだった。
「うるさい!!」
そう返せばお前の声の方がうるさいと言われたのでまた小突いた。
昔からこいつはなんだかんだで僕の味方でいてくれる。
いまだになんでこいつがこんなに僕に優しくしてくれるのか、
なんでこんな僕なんかと一緒にいてくれるのかもわからないけれども、
それでも一緒にいてくれる杉本に僕だって感謝くらいはしている。
こいつなら、相談したとしても聞いてくれるだろうか。
くだらないこんな悩みを。
でも僕が本気で悩んでいるこの夢のことを。
きっと笑いもせず、バカにもせず聞いてくれるだろう。
でも言えないのは、もしそれで杉本までもが僕のことをおかしいと言ったらどうしようと心のどこかで思っているからなのだろう。
子供ってみんなそんなものだ。
特に、僕たちのような学年になってくれば誰か他人に頼ったりする行為がもうすでに恥ずかしいことだと無意識に捉えてしまう。
それが思春期なのである。
前に保健体育で今野先生が言っていた。
「簡単に言うと、思春期というのは自分というものを客観的に見ることができるようになる時期なんだ。誰もが通る道だね。
大人や他人の言葉に反抗的になる反抗期というのも思春期の特徴的な行動の一種だよ」と。
この夢も、もしかしたらそれの一種なのかもしれない。
そう思うもモヤモヤした気持ちのまま晴れることはなく、かと言って誰かに相談するのも小恥ずかしくそれでいてどこか少し不安だった。
「何ボーっとしてんの?おいてくよ?」
「うぇあっ!?!!?」
急に顔を覗き込まれて杉本に声をかけられて考え込んでいた僕は大げさに驚く。
「そんな驚くことなくねー?」
なんて笑う杉本に
「びっくりするだろ、!」
なんて言い返せばはいはいごめんなさいねーなんて適当にあしらわれる。
『まぁいっか』
杉本の不思議そうな声と授業の始まりを告げるチャイムの音に急に考え込んでいたのがバカらしくなり早く行くぞ、と急かしてくる親友を追いかけた。
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