第九十話:二人のリトルデーモン。


「お前が行こうなんて言うからこんな事になったんだぞ!?」



「ばっ、お前だって乗り気だったじゃねーか」



「こいつらに雇われてるのになんで俺らが捕まんなきゃならねーんだよ!」



「そうだそうだ!」



「そりゃ、不法侵入ってやつだからじゃないですか…?」



「まじかー」



 アルタのライブが終わり、トイレからの進入口を発見したヤンキーが6人。



 彼らはあっさりと中のエージェントに確保されていた。



 彼らは特に縛られたりはしてないが、黒服十五人程度に囲まれてはさすがに降参するしかなかった。



 彼らはヤンキーだが、それ故に多勢に無勢というのをきちんと理解している。



 偉い人にちゃんと話せば雇われている人員だという事がわかるから連れていけと言ったのは彼らの方からだった。



 前に七人、後ろに八人と、黒服に挟まれた状態で彼らは支部長とかいう人の所へ連行される。




 道中ところどころで別の黒服が倒れていたので彼らを連行している黒服達も慌て始める。



 それもあってなお更彼らは侵入者一味として疑われる事になった。



 そして支部長室へとたどり着いた時、



 そこで、騒ぎがおきた。



 他の侵入者が現れたのだ。



 前にいる連中が部屋の中の支部長とか言う人と大声で話している。




 なんで部屋に入らないのだろうと疑問だったが、どうやら背が小さくて見えないだけで誰かが部屋の前に立っていたようだ。



 黒服の隙間から可愛らしい少女が見えた。



「おいおい、侵入者ってあの子かよ」



「ほんとは俺らがあの子をここに入れないようにしなきゃいけなかったんだろ?」



「でもあんな小さな子に何ができるんだよ」



「むしろこれってあっちの味方したくなっちゃいますね」



「それある」



「んでお近づきにってか?ゲスいわー」



 そんな会話をしいていると、前にいた黒服が消えた。



 彼らには意味が解らなかった。



 突如二人ほど消えて、次のもう一人が消えた時に何が起きたのかを理解する。



 ただ単にあの少女が物凄い勢いで黒服達を地に伏せていたのだ。



「すげぇ…」



「お、おい…あれってまさか…」



「あれか?噂のリトルデーモン」



「まてよ。あれって結構前の話だろ?」



「じゃあ代替わりしたって噂もマジだったんですかね?」



「じゃあこの子が噂の二代目か!?小さくてかわいくて強いとか最強だな!!」



 彼らはヤンキーである。



 どこかチームに所属しているわけではなく、強い者に憧れるただのヤンキー、チンピラである。



 最早彼らは目の前の少女が侵入者だという事も、自分らが侵入者と勘違いされている事もどうでもよかった。



「やっちまえー!」



 気がつけば皆で少女を応援していた。



 のだが。




「じゃま」





 彼らの意識は闇に落ちた。



 微かに、消えていく意識の隅で自分らの後ろにいた黒服たちが崩れ落ちる音が聞こえた気がした。





「ふぅ。終わったんだよ」



 ほんの数分でハニーが支部長室に帰ってくる。



「捕まってた人たちって結局誰だったんだ?」



「うーん。わかんない。じゃまだったから一緒にのしちゃったんだよ」



 …それでいいのか?




 まぁそれよりハニーが無事に戻ってきた事を良しとしよう。



 軽い運動を終えたくらいの感じでハニーが両手を上にあげて伸びをした。




「ふぅ。…で、とりあえず外に居た連中は倒しちゃったけどまだそこに閉じこもってるつもりなの?もう無駄なんだよ」



 無邪気な問いかけが逆に怖い。




「ば、馬鹿な…こんな子供に?お前、一体何者なんだ…」



「そんな事はどうでもいいの。この子は地上に舞い降りた天使。そうとでも思っていなさい。貴方なんかが口をきく事すら許し難い事だわ」



 今まで支部長机でふんぞり返っていた泡海が立ち上がり、ハニーを称える。



「て、天使だと!?この少女がっ!?」



 ちがうちがう。なんか誤解がひろがっていくぞ。



「残念だけどボクは四分の一なんだよ」



 ハニーは複雑そうな顔でそんな事を言い出した。四分の一ってなんの話だかよく解らないが、とにかく奴を隠し部屋から引っ張り出さないと話が進まない。




「貴様ら、雑魚をいくら倒したところで安心するのはまだ早いぞ!ここには高い金出して雇ったプロが居るんだからな!そいつさえ来れば貴様らなんか」



「あー?それってこいつの事か?」



 支部長の声を遮って現れたのは我らが咲耶ちゃんである。



 あちこち血まみれになっているがそれも狂気じみててかわいいよ!



 って、そうじゃない。その血はなんだ?どうやら本人が怪我してるって訳じゃなさそうだ。



 よく見ると咲耶ちゃんが右手に金髪を生やした変な物を引き摺っている。



「咲耶ちゃん、それ…何?」



「咲耶ちゃんゆーな。これは途中で見つけた風呂掃除男だよ」



 風呂掃除男…?




「そ、そんな…ジャバウォックまで…」



 支部長の様子を見る限りそのプロとやらが風呂掃除男らしい。



「…それはもう悪魔の如き戦いぶりでしたよ」



 咲耶ちゃんの背後からすっと多野中さんが現れた。



「多野中!無事だったんですわね。安心したわ。爺に何かあったらわたくしどうしたらよいものかと…」



 部屋の隅で青い顔をしていた有栖が多野中に飛びついた。



「ほっほっほ。心配させて申し訳ありません。ただ勢い良く飛びつかれては危ないですぞ。私も少々まだフラついておりまして」



 多野中さんは少し顔色が悪く、フラフラしていた。道中大変だったのかもしれない。


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