第28話 バケモノとカミサマ
闇から闇に、私は空間の裏とでも云うべき場所を跳躍して瞬時に学園へ移動した。
グラウンドの真ん中で、この地のちからを感じながら揺蕩う。
時の流れを忘れ土地と一体化していた私を呼び覚ましたのは、校舎の中から伝わってくる清廉だが邪悪で強大な力の波動。
懐かしくも、忌々しい感覚。
私は眉を不快そうに歪めながら、生徒会室へ向かった。
「やあ、親友! 君はその選択をした訳か! 新しい君を祝福しよう」
そこには、何故か神父服を着た苺の姿があった。
ちからが増幅し知覚範囲が増えた今では、彼女の姿が半分は人の顔で、もう半分は千の顔が重なり塗り潰され無貌でもいうような顔に見えた。
「黙りなさい苺、いえ、鎮守の神〝御影〟四百年経っても胡散臭さいままね」
「へえ、思い出したんだ愛し子。久しぶりとも言ったほうがいいかい?」
私は苺の軽口を無視し、問い詰める。
「それで、今回は何処まで関わっているの邪神」
「邪神とはヒドイ。二千年以上前に改心しているというのに。――それはそれとして、前と同じさ」
――前と同じ。
それは。
「つまり、入れ知恵だけしてあとは傍観していた訳ね」
「傍観とは人聞きの悪い、見守っていたと言って欲しいな」
彼女は悪びれず、からからと笑った。
私は頭にきて、闇で作り上げた刃でバラバラにするが、平気な顔で元の姿に戻る。
「おっかない、おっかないなぁ!」
「答えなさい御影。〝詩〟を複製したのは貴女ね」
「ああ、それも知ってしまったんだね! 僕は君達二人が好きだったのさ! だからもう一度二人一緒の姿が見たくてね! まあ、失敗しちゃったけど!」
得意げ胸はる姿に殺意が沸くが、同時に既に何千年も生きているだろう彼女の孤独を思うと。
少しだけ許せる気がする。
――それはそれとして。
「……いくら貴女が御影だとしても、御影衆がよくそんな非人道的なこと許したわね」
「それなら問題ナッシングさ! 僕は神だ。見守るだけで基本ノータッチだしね。それにここ数ヵ月、バケモノになる人間が多かっただろう? あれはその御影衆が人為的にやったものさ。目的の為に、本来の役目を蔑ろにするなんて滑稽だね、人間って」
「……貴女、本当に改心したの?」
「心外だね! 僕程神サマらしいのはそうそういないよ? ……と、まあ。ここ数十年の御影衆に関してはちょっと手を抜いていたのは否めないけどね。カンフル剤に耀子を投入したけど、悪化の一歩を辿っちゃったしね」
苺は、お手上げだね、とでも言うように小憎たらしい顔で笑う。
「それで、耀子のような小娘が人を動かせる立場にいるのね」
「まあね。あの子も面白いからとっても愛しいよ! ……それより、僕は君に驚いたよ」
「……」
「真実を知った君は傷心で囚われ、儀式がもうちょっとずれ込むかと思ってた。まったく僕もまだまだ未熟――」
苺は雄弁な口を突然閉じると、ふーんと唸って、
「――そうか、君が来るのか……なら」
次の瞬間、その姿を消した。
私は彼女に向けていた知覚を広げ、校舎に迫り来る燃え盛る炎で出来た巨大鳥を発見。
「――耀子」
空気が爆ぜる派手な音と共に、生徒会室の窓を打ち破って登場する。
「……ふう。お待たせしましたわ」
好戦的な眼差しと反対に、口調は軽い。
「お呼びでないわよ三下」
「あら、これを計画したのはわたくしなんですから、嫌でも参加させてもらいますわ!」
「円はどうしたの?」
「しばらく足止めしただけです。――まあ心配せずとも、このわたくしがアナタを倒して差し上げますわ!」
耀子は炎の巨鳥をその身に纏わせながら、獰猛に叫んだ。
「いい準備運動になりなさい小娘!」
私は軽くひねり潰してやると、彼女に相対した。
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