第5話

【才能なんて必要ない!】


五話


大体武道会は才能が低い奴らからやっていく。大体の運動会とかその辺がわかりやすい例だろう。かけっことかで最初の方は遅い人達がやっていってレースが終わるにつれてどんどん足が早くなる。

これもそうだ。だから俺は絶対に最初の方だと思われていた。

……だが、まさかの大トリ!午後三時頃からの予定だ。

この学校の祭りってのは、市民の人達が屋台を出してくれる。そのご飯を食べながら試合を観戦する。

最初の方になぜか俺より数値の高かったはずの小桜が出てきた。

スマホのカメラを向けると彼女の数値が見える。その機能を使って見てみると30……ではなく、3.0。つまり3だ。

その流れて相手を見てみると、敵も3だった。なぜあいつの対戦相手はあってるのに俺はあんなんになっちまったんだ。

だが、復讐の機会にはちょうどいい。なんでもいいのだが一応この事だけははっきりさせておきたい。

それからずっとその機能を使いながら試合を見ていたが、全部一対一だし、数値は試合につれて上がっていったが、両者ともほぼ変わらない人達ばかりだった。

そして、何もわからないまま俺は試合の準備に取り掛かる。

一つ前の試合を間近で見ながら、念入りにストレッチを済ませ、呼吸を整える。

「よし!ぶっ飛ばす!」

指を鳴らしながら気合を入れ、戦いの場である円状の舞台にへと歩いていく。

「皆さんお待ちかね!今日の大トリ!物凄く珍しいカードだ!成績最下位!どうしようもない無能サンドバッグ君VS一年生にしてその才覚を伸ばし続ける剛拳の秀!疾風の巌!止水の弥勒!この試合だけは三対一で行われるぅ!」

彼らの名前が呼ばれた時、キャー!と黄色い歓声とかいうのが上がる。確かにこう三人が並んでると眩しいくらいだ。ムカつくぜ。

「やあ、サンドバッグ君。まずは僕から相手してもらおうか」

金髪の不良っぽいそいつは、澄ました笑顔でそう言った。奴は秀。一言で言えばいけ好かねえ野郎だ。

「別に三人でかかってきてもいいんだぜ?」

「ははっ!そんなことしたら熱い試合ってのが出来ないだろ?」

「……流石に世界ランキング三位は怖いのか?別に俺はいいんだぜ?熱い試合なんてしなくても。お前らなんて片手で十分だ」

「おぉ……これが雑魚はよく吠えるってやつ?」

後ろから丸顔坊主のシュッとした体つきのイケメンが口を挟む。

「巌。やつはサンドバック何も出来ないさ。それより早く終わらせてよ秀!」

その横で悪戯な笑みを浮かべながら、横の坊主を宥める童顔の小学生みたいなのが、弥勒。

「あー、そうだね。じゃはじめようか。話してるだけだと校長先生にもみんなにも悪いし」

クソ。イケメンぶりやがって……あいつの化けの皮剥いでやる!

拳に力を入れた瞬間、顔面に綺麗なストレートが入る。そのまま俺は後ろに吹き飛ばされた。出が早い……流石に強いな。

さっさと折れた頭蓋骨を再生しつつ、前を見やると奴はため息をつく。

「本当に君の能力は面倒だね。今ので大体の奴は黙るのに」

「そりゃ残念だな」

吹っ飛ばされてしまった壁を蹴って、奴の懐まで飛んで行くと、腹に300パーンチをぶち込んでやる。

「お返しさ」

「うぐっ……」

吐血し、奴は吹っ飛んでいく。

「……油断したな。俺をあまり舐めるなよ?」

「ゲホッゲホッ……ははっ確かに油断したかな。俺と力比べしたいのかい?君は」

「ま、それなら負けねえけどな」

「ははっ!言うねえ……じゃ、僕も本気で行くよ!」

そう言うと奴の発する気が変わった。ひりつくようなそんな圧迫感。それに俺も対抗すべく、拳を固める。

「600パーンチ!」

今自分で出せる極限まで力を貯めてから、やつの拳と俺の拳がぶつかり合う。骨がボキボキと細枝みたいに折れる。くそ痛いがあの時に比べれば別になんでもない。それにここで負けたら容姿、人気、力、全てで負けることになる。それだけは絶対に嫌だ!

「うぉぉぉぉ!!」

もう片手も使い、合計1200。そうすると、やっと奴は苦悩の表情を浮かべた。

「サンドバッグのくせに生意気な……っ!」

やつも両手を使ってくるが、もう遅い!

やつの拳に打ち勝ち、ギリギリで奴は殴りかかろうとしていたもう片手で防御に入った。だが、それも破って顔面を貫いてやった。

一応防御されてしまったから、顔面には入らなかったが、頭蓋骨くらいは折ってやっただろうか。

ムカつくんだよ……なんで俺があんな目に遭わないといけなかったんだ?

もっとぶん殴ってやりたい所ではあったが、戦闘不能と判断されてしまったため、やつは強制退場になった。

残り二人だが、流石にこの腕のダメージを治すのは時間がいるな……

右足も少しさっき壁を蹴った時に捻っちまったし、どうしたもんか。

そう思いつつ奴らに目を向けると、フリーズしているかのように身動きひとつ取ってなかった。

「どうした?」

「……え?いや……ありえんだろ」

「秀が……負けって……え?」

自分たちが立たされている状況を全く二人は把握してないみたいだ。これだから調子に乗ってるやつってのは。だから、足元をすくわれんだ。

「次はどっちだ?」

「秀のことはびっくりだよ……でも、油断した秀も悪い。あいつは油断して負けたんだ。だから、お前なんて相手じゃねえ!」

そういうやつの顔はひきっていた。だが、流石に疾風と言うべきか速い。

「コバエみたいに鬱陶しいやつよ」

「なにい!?お前の方が面倒だろうが!」

「さっさと来いよ。潰してやる」

「イラつかせやがって!」

人間がもう忘れてしまった能力、野生の勘のようなもので気配を感じるんだ。殺気を感じろ。神経を張り巡らせ、尖った殺気を探す。

「なに!?」

「……これで疾風ね。笑わせる!」

奴の正確で真っ直ぐな掌底を治した右腕で抑え、もう片足で蹴りを入れてやる。そりゃ勿論600。フルパワーだ。

バキバキと悲鳴を上げる奴の肋骨。

俺はこれ以上のことをされたんだ。ざまぁねえな。

足を振り抜くと俺の右足も折れたらしい。なかなか痛いなこれは……

だが、あとは一人。さっきまでズルだズルだ!と吠えていた外野も黙り、ようやくやりやすくなった。

顔でも人気でも成績でも負けてんならここで勝つしかねえだろうが!

もう一人、止水の弥勒はただ立ち尽くしていた。俺にも好都合だ。さっさと体を治し終わると奴に大しての攻撃方法を考える。奴はカウンターの申し子だ。全てを打ち返してくるという才能を持ってる。あいつら二人はなんとかゴリ押せたがこいつはそうはいかない。フルパワーでやったところでそれがこっちに帰ってくるだけ。

「……ギブアップするか?」

俺は先にそう聞く。

「……な、何を言うかと思ったらははっ!面白いね……」

「おいおい弥勒。顔が笑ってねえぞ?」

奴らはイケメンと言うだけで罪なのに、なぜあんな才覚を神は差し出した?神様がいるなら俺は許さねえからな。

「やれるもんならやってみなよ。サンドバッグ君」

これは奴の常套手段。相手を挑発し先手を打たせる。そこをカウンターってのが彼の鉄板だ。

「お前のカウンターくらいどうってことねえけどな!」

右腕に力を込めて、やつに走り出そうとしたところ、俺の視界が急にボヤけ足がもつれ、顔が地面にごっつんこ。

「……痛ぇ」

な、なんで倒れた?顔を上げ、正面を見やるが、やつも驚いていた。奴がなんかやったという訳でもないらしい。

体が動かない……ぐぅぅぅ……と、腹が鳴る。五日くらい何も食べなかったかのような飢餓状態とよく似ていた。

痛みならどうにでもなるがこればかりはやばい……

「まだ行けるよ!自分の腕を食べればいいんだよ!」

俺は考える前に、自分の腕にむしゃぶりつく。

鉄っぽい匂いと柔らかな肉感が歯に嬉しく、どんな高い肉よりも美味く感じる。それと同時に頭がすうっと晴れるような感覚。

自分で何をしたかよくわからないけれど、別になんでもいい。今なら殴れる。やつだけはぶん殴ってやる!

その一心で奴に飛びかかると痛かった左腕を使わずに、もう片手で奴の怯えた頬を捉えた。

「や、やった……やった……ぞ……」

もうそこから先は記憶に無かった。

目覚めてまず目に飛び込んできたのはフェニックス先生だった。

「……ここは?」

「目を、覚ましたのね……」

先生はちょっと気味悪がって、すぐに俺から離れる。

「……先生?」

「い、いや……よ、よかったよ!今日中に目を覚まして!」

そういうが、先生の顔はそれを望んでなかったように見えた。

というか俺、なにしてた?二人殴ったところまでは覚えてるけどその先の記憶が定かではない。

「……あんまり意識がないんですけど、俺は勝ったんですか?」

「……いいえ。引き分けよ。思い出さない方がいいと思うけどね」

「そう……ですか……」

全力でやったけど、結局引き分けか……復讐達成とはならなかった訳か……

「ん?思い出さない方がいいってどういう事ですか?」

「その言葉の通りよ……」

……そういうことか。多分俺は負けたんだろう。

「先生は優しいですね」

「私は別に優しくなんてないわ」

俺は身支度を整えてありがとうございました。と残して帰路につく。

とはいえ、なんでか無性に腹が減ってる。寮に戻る前に牛丼屋に寄ってから帰った。

なぜか牛丼屋で特盛を食べたのだが、お持ち帰りでも特盛を頼んでいた。

いつから俺の胃袋はでかくなっちまったんだろうか?こんなところで才能なんて使わなくてもいいんだぞ……無駄に金が飛ぶじゃねえか。

だが、俺の食欲は一向に収まらなかった。

「……やばいなちょっと」

そんな時に携帯が鳴った。スマホを開くと、相川裕二という表記があった。

「どうした?俺も忙しいんだぞ。口説くなら後にしてくれ」

「そんな冗談言ってる場合かよ!昨日のあれはどういうことなんだよ!」

キーンと耳鳴りがするほどの声にスマホを耳から遠ざける。

「うっせえなぁ……で、昨日がどうしたって?」

牛丼を食べながらポテチを頬張りつつ訊く。

「何って昨日の才能武道会のことだよ!あんなのありえねえだろ……」

「そう興奮すんな。順を追って話せ」

「だからさ、お前の昨日の才能。明らかにおかしかった。だって最下位のお前が成績上位者相手三人をボコして戦闘不能にするなんて有り得ねえだろ!」

「……は?なにそれ。俺って負けたんじゃないのか?」

「負けてるもんか!まあ、お前が倒れちまったから引き分けになったけど、明らかにお前の方が強かった。でも、ありゃないだろ。自分の腕食べるとか……」

「……は?」

ちょっと何言ってるか分からない。自分の腕を食べる?

「……確かに俺は今食欲がおかしいけど、流石に自分の腕は食わねえよ。グールじゃあるまいし……」

「じゃ動画送ってやるよ!」

そう言って電話は切れた。

……まさか。そんなことするわけねえよな。

それからすぐに動画が送られてきた。

それを開くと俺らしき人間が急に倒れ、自分の腕を食べ始める動画だった。

「……嘘……だろ?」

急に吐き気が襲ってきて俺はトイレに走る。

「うぇぇ………」

完全に戻してしまった。腕を食っただと?なぜ俺はあんなことを……

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