鴉取妖怪異譚

松田詩依

 その昔。人間はあやかしと呼ばれるこの世ならざるものの存在を信じていたという。

 人間に良き影響を与える妖もいれば、またその逆も然り。

 故に妖事あやかしごとを生業とする陰陽師などの職業が存在した。

 けれども妖に善悪の意志はない。飽く迄も、妖は己の好き勝手に動くのみ。良き悪きの物差しは人間が勝手に測ったものである。


 怪異とて、天災と同じ。

 原因こそあれど、誰を傷つけようという明確な悪意も敵意もない。人間はその現象に巻き込まれるだけに過ぎないのだ。

 それらの現象を恐れ、怯え、時には喜び、神のように崇め奉っていたのもまた——人間であるのだから。


 しかし世は移り変わっていく。人間はいつしか妖や怪異を想像上の存在とした。妖を信じる者はいなくなり、やがてその姿を見る者は極端に減ったという。

 然れども、人間の都合で妖が姿を消すわけでもない。今でも彼らは人間が知らぬところで好き勝手に過ごしている。

 人間が察しないだけ。見ないだけ。感じないだけで怪異はこの世に——常に我々のすぐ傍に存在しているのである。


鴉取妖怪異譚あとりあやかしかいいたん

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