策を成す
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劉備は法正達を連れて劉備の家に集まっていた。法正と貂蝉、そして辛憲英である。人手は多い方がいい、そう思ったため呼んだ劉備だが法正はあまり気に食わなかったようだ。劉備の母は今日、近所の薬師の元へ薬を貰いに向かっているため現在は不在である。薬師の所へ行くとしばらくは返って来ないので十分に時間は取れる。
「俺は劉備殿以外を助けるつもりはありませんから」と断言したためである。だがそれも劉備の言で渋々収めたが。
劉備は憲英に今までの経緯を説明する。洛陽で華佗を探している関羽と張飛の事も頭に入れて法正に伝えた。
「ではまず作戦だが……その前に董卓の今後の動向を貂蝉殿」
「はい。董卓はしばらくこの楼桑村に滞在予定です。洛陽では董卓暗殺の話が出ており、董卓はそれに気付いているためこの村に逃げてきています。此処で甘家の力を使い兵力を集める予定でもあるのです。そのために甘家の娘・甘梅と婚約しています」
「そうして甘家の全てを搾取するつもりだな」
「はい、そして洛陽は呂布が留守を預かっているのですが父・王允が籠絡してくれています。呂布は忠義も何もない男。犬ほどの忠義しか持たぬ男です。父の策略で董卓を裏切りこちら側に寝返るでしょう」
そうなればあとはわたし達の独壇場になりますと貂蝉は告げる。だがそう上手くいくのだろうかと劉備は少し疑問に思った。
「ではこうしよう。貂蝉殿、あなたは使者として洛陽へ向かってくれ。そして呂布と接触し、呂布と関係を持って欲しい。ああ、身体を使って頂いても結構だ。離間計を実行する」
法正の策はこうだ。董卓の愛妾である貂蝉が呂布と関係を持つ。すれば董卓と呂布の関係は冷え込むだろう。そこに王允の籠絡、呂布は董卓を恐れ愛する貂蝉の養父が董卓に狙われようものなら味方するに違いない。美人計と離間計、これを使っての連環の計が達成される。
「そして董卓を押さえるには辛憲英殿、あなたが適任だ。董卓と甘梅の監視を」
「わたくしは董卓の傍で女官のように振る舞えば良いのですね。了解致しましたわ」
「もちろんそれだけじゃない。内部から甘家と董卓を離間するようにして貰う。甘家の長は甘奉考。董卓に心酔しているが……狙うのはそっちじゃない」
「甘梅の方ですわね」
流石、才女・憲英殿。やるじゃないかと法正は彼女を褒め称えた。もちろん、純粋に褒めている訳ではないのは見て取れた。
董卓と甘家の繋がりは密接だ。劉備が十になる前から彼らは繋がりがある。甘家は董卓のお陰で富を得ているし朝廷にも董卓の部下として顔が利く。甘家は田舎の豪農として董卓を匿うだけの富はある。彼の隠れ蓑としては適所だった訳である。そして甘家の長である奉考はそんな董卓に自らの孫娘を嫁がせる事にした。五十程度の中年の男とまだ二十にも見たない孫娘の婚姻である。保身のための婚姻である事は確かだろう。
「そして劉備殿、あなたは今まで通り盗みに行くふりをして村から出て洛陽へ向かってください。洛陽で関羽殿達と合流し、反董卓の官吏達に情報を横流し戻って来てください」
「それだけでいいのか?」
「はい。それ以上やるとバレますし、こちらとしても動けなくなる。劉備殿、あなたが捕まれば俺達は動けません。……バレたら劣勢となります。母君を人質に取られる可能性もあると考えていてください」
いざとなればまた盗みをしなくてはならない可能性も。法正は劉備の瞳を力強く見つめてそう告げた。劉備はそれだけで覚悟が引き締まる。心臓が締め付けられる。
「俺は全体を見回し、逐一行動を伝える。だから俺の言う通り動け」
ああ、劉備殿もしっかりと頼みますよ。でないと少々劣勢を強いられる事になりますからと法正は告げる。失敗すればどうなるか予想出来る。これは失敗すら許されない策だ。絶対に成功させなくては。母を、村を守るために――。そんな覚悟をする劉備の隣で、法正は一瞬だけ恐ろしい顔をしていた。それは何かに懸念しているような、何かを訝しんでいるような、そんな顔だった。
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