Eye24 休暇の終わり
風呂にばかり浸かっていたあの日から数日、私はずっとそんな事を繰り返していた。そうして眼も殆ど癒えてきたところでそろそろこの宿ともお別れである。
「それではまたのご利用をお待ちしております」
「ええ、いずれまた」
フロントで会計を済ませ、少し軽くなったカバンを持って表に出る。……と?
「あ、二実さん!」
「おお、
「そんな感じかなー。二実さんも?」
「私も今日で休暇はお終いだね」
ばったりと映月君に遭遇。なんとも面白い事もあるものだ。
「そっか。あ、そういえば……おーい! 父さーん、母さーん!」
「? 何か私に用が?」
「うん、父さんと母さんが何か話しててね。二実さんの名前も出てたから」
私を話題に? 特別何かをした訳ではないが一体何事だろうか。と、頭をひねっている内に
「いやぁ旅行最後の日が重なるとは面白い事もありますなぁ」
「ははは、全くです。……それで私に何かご用が?」
「それについては車の中でお話したいと思っておりまして」
「? 構いませんが……」
「ありがとうございます。主人と私の車二台で来ておりますので私が子供達をのせて行きます。二実さんは主人の車の方でお願いしたく」
「分かりました」
ふーむ、一体なんだろうか?
――
「……時間をとって頂きありがとうございます。二実さん」
「いえそんな。特急の最寄り駅まで送って頂けるのは嬉しいです」
話に付き合うお礼として映さんは私を駅まで送ってくれている。宿からはローカル線に行くまでの事を考えれば少々楽なのでありがたい。
「……二実さん。『家督』やら『家柄』というのは面倒なものだと思いませんか」
「? いやまぁ確かにしがらみなどはあるでしょうがいきなり何を」
「いえ、私もそんな中である意味振り回されておりましてなぁ。普段はこんな事を話したりはしないのですがどうにも二実さんの『眼』を見ていたら話さずにはいられず……妻もそう言っておりまして」
「……」
これは……どうやら遠回しな「仕事」の依頼と見て良さそうだ。当人は恐らく私の「仕事」について知らないだろうが、眼に反応したらしい。
それから映さんはポツリポツリと断片的に家の事を話し始めた。核心には触れていないし不明な点も多いが一つ言えるのは、それによってこの家族が少々息苦しい思いをしているという事だ。
そうしている内に車は駅へとたどり着いた。
「すみませんなぁ。話したいと言った割に中途半端な事しか言えず」
「いいんですよ、お気になさらず。ああ、そうだ」
「このお店、色々と相談に乗ってくれるらしいのでオススメしておきます。それではまたどこかで……」
映さんに名刺を渡して車を降りた。
なんだかんだと私もお節介が過ぎる。
とにかく帰って営業再開といこう。
待っている人もいる筈だ。
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