Eye20 嬉しい急用
さあて、少年は下流へ向かった。私は上流の方へ……
「おじさん? どこ行くの? 良かったら一緒に釣りでもどう?」
おっと、呼び止められてしまったか。ふむ、厚意を無碍にするのもまた野暮というものだろう。家族さんの方を見れば歓迎といった雰囲気だ。
「それじゃあ、私も……しかし釣りは子供の時以来なもので」
「大丈夫ですよ。そこまで難しくもありませんし。道具はこれを。余分に持ってきて正解でしたなぁ」
そう豪快に言うのは少年の父親。道具を借りて釣りをしつつ話を聞くことには、昨晩私のことを映月君が話したらしい。それで私がどんな人物か気になっていた様だ。
「しっかし不思議な御仁ですなぁ。映月はなかなかに人見知りでね。そんなあの子がここまで入れ込むとは……」
「ははは、私も人見知りでして……ただ仕事で人とはよく関わるので多少は克服しているといったところなんです」
「なるほど、苦手だった故にそういう人の気持ちはよく分かる、と」
川に糸を垂らしながら映月君の父親と話をする。私より恐らくは年上だろう。対岸では映月君が釣りを、姉と母親らしき人物が写真を撮っている。何とも長閑な時間だ。
「そう言えばお名前をまだ聞いていませんでしたね。私は『二実 ※※※』といいます」
「これはどうもご丁寧に……私は『映』、映月と同じ『映』の字で『あきら』と読みましてな。変わった名でしょう?」
「いえそんな。ただ映月君も同じ様なことを言ってましたね」
「ははは、おっと! 当たってますよ」
「おおっ! 危ない危ない……よっ、と」
話していたら一匹当たりに来てくれた。そこそこ大きい魚だ、有り難い。
「幸先いいですなぁ。お、私にも当たりがっ!」
「おおお!」
まさかもまさか、これは楽しい。映月君に感謝だ、本当に実り多き休暇になりそうである。
「私もいいのが釣れましたよ」
「いいですね。これで取り敢えず出家はせずに済みそうだ」
「ははは、『坊主』にはならないってことですな。ささ、どんどん釣りましょう。夕飯のバーベキューの材料が必要でしてねぇ。ああそうだ、ご一緒にどうです?」
「よろしいんですか?」
「ええ、もちろん! 映月も喜ぶでしょうし、『
今日の夕飯は旅館で摂らずに別の店でと思っていたがまたしても僥倖。これは良い。
「では……私もお手伝いと致しましょう、かっ!」
大きい魚が一匹、宙を舞った。
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