Execution1

Eye8 右眼

 さて、始めよう。あまり出したくはないがやるしかないし、やらなければ気がすまないのも事実だ。

「久々だな。右眼で見る世界は」

 眼帯を外し、そう呟く。だがそんな事はどうでもいい。あの資料の内、最優先の物を手に取る。

「『千里眼・彩』! ……いかん! こいつはマズい! 『翔移ショウイ』!」

 緊急事態だ。予定を変更して「翔移」で目的地、正確に言えば目的人物の前へとする。


――


「や、やめて! 私が、私が悪かったからぁ!」

 女の子が腰を抜かしかけながら後ずさる。その顔には恐怖しか映っていない。

「うるさい! お前は本当に能無しだな……」

 男が片手に鍋を持ちながら詰め寄る。

 

 そして、男の振った鍋の中身が女の子に振りかかる……その直前だった。


「能無しはお前だ、このクズが」


 その声と共に、また一人男がくうから現れ、少女の前に立つ。

……自らに熱湯を浴びて。


「お、お前は……!」

「黙れ、貴様は約束を反故にした。消えろ……『獄滅ゴクメツ』」

「グキャッ、グ、ゲ」

 彼に睨まれた男は四肢があらぬ方へ捻れつつ、そのままくうへと畳まれていった。

 血の一滴も残さずに。


――


「遅れてすまない……危なかったね。怖かったろうに」

「あ、あ、貴方はあの時の」

「もう大丈夫。奴は消えたからね」

「あ……」

 その言葉の後、彼女は言葉にならない声でひたすら泣き続けた。それにしても間に合って良かった。一歩遅ければ彼女の心と身体にまた傷を、一生消えない傷を負わせるところだったからな。


――一時間後

「落ち着いたかい?」

「はい。本当にありがとうございます」

「ごめんよ。やっぱりあの時、奴を……」

「いえ、そんな。あの人を許し、改心させようとしたのは私ですから。貴方は何も……それに約束を破ったのが悪いんです」

 約束、そう約束だ。あの男には私が誓わせた約束があった。

 あれは数ヶ月前の事。今目の前にいる女の子が私に「仕事」の依頼を持ってきたのだ。内容は先程の男、女の子の父親からの暴力を止めてほしいとの事だった。勿論引き受けて準備をし、男を「審眼」にかけた。だが彼女は男が改心するのではと言い、最小限のダメージにして欲しいと頼んできたのだ。

 だから私は男に「彼女に危害を加えない」、「次は無い」と約束させた。

「……私が馬鹿だったんです。あんな人が改心するわけないのに。私はどうして……」

「……」

 うなだれる彼女。私との約束を破ったのも許しがたいが、それより彼女からの恩を仇で返した事が尚のこと許せない。

「ありがとう。貴方には二回も助けられました。それにあんな事まで……」

「貴女が良ければそれで良いんです。私の事はお気になさらず」

「で、でもあれは殺人に……」

。奴は最初から居ない事になりましたから」

「えっ!?」

『獄滅』という術。これは対象を存在した事実ごと消す、平たく言えば術だ。更に。男が消えたところで彼女は消えないし、男が関係していた如何なるものも問題なく動き、回る。




――これが私の右眼の力。その一部だ。

 

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