アンデッド・タウン
@strider
第1話 噂
「この通路には幽霊が出るってウワサですよ」
駅前の道を折れて、パチンコ屋の右手に伸びる細い路地に入ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。若い男の声だった。いかにも軽薄そうな口調で、行きずりの人に声をかけなれている感じだった。もしかすると、怪談を利用したナンパかもしれない。
三枝深広は警戒しながら、後ろを振り向いた。
にっ、と笑う坊主頭の男が視界に飛び込んできた。パチンコ屋の電飾を反射して、丸刈りにされた頭がてかてかに光っている。
「あなたは?」
深広は眉をひそめながら聞いた。
男はひょろりと背の高くて、革のジャケットを着て、スキニージーンズをはいている。首には太めのチェーンが巻かれていて、その先端には髑髏の飾りまでついていた。
「誰ですか? 私にいったい……?」
「おっと、失礼」
男は苦笑交じりに、背筋をピンと伸ばして、胸元で角のように突き立ったジャケットの襟を直した。それから、ごほん、と咳払いをする。
「こんな格好をしていますが、駅の向こうにある寺の住職をしています」
「住職って……、お坊さんですか?」
「そんなところです。ほら、頭だけは雰囲気が出てるでしょ?」
男は自分の坊主頭をくりくりとなでながら、陽気なしぐさで首をかしげた。表情といい、声の質といい、人懐っこさが伝わってくる。
「そのお坊さんが、私に何の用なんですか!」
「だから、ここの通路には幽霊が出るって、檀家さんもウワサをしていて」
「かまいません。いるのなら会ってみたいくらいですから!」
「幽霊だけじゃなくて、こんな夜中に、女性が一人で暗い路地を歩くのは危ないですよ」
「平気です。ご心配ありがとうございました」
引きとめようとする男を無視して、深広は路地に入った。
幽霊がいるのなら会ってみたいくらい。それは深広の本心だった。むしろ、幽霊に会うためにここへ来たと言ったほうが正確かもしれない。
街明かりが、一歩ごとに遠くなっていく。目が慣れてくるまでは足元も覚束ないほど路地は薄暗かった。でも、両手を広げれば左右の壁に触れそうなほど細い一本道だから迷う心配はない。
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