16‐13「本当の名前」
「それではトーハさん、参りましょうか」
魔王の攻撃をしのいだ後ダイヤがふと口にする。
「どこに? 」
尋ねると彼女がニッコリと笑う。
「皆さんの所ですよ」
「そうだな、いけるとこでもいいから行こうぜ」
「……うん」
彼女達が口にする。そうだ、今回の魔王討伐は俺達だけで出来たことじゃない、まだ体は大丈夫だ。いけるところまで皆の顔を見に行こう。
「よろしく頼むよ」
俺はそう口にするとダイヤに掴まった。
「『ワープ』! 」
その言葉と共に激闘ですっかり殺風景になってしまった魔王の城の姿がみえなくなった。
~エウトス~
「おう、来たのか」
「その様子だと、どうやらやったみたいですねえ」
「それは良かった」
以前は遠目に見ていた首都の景色が広がると同時に2人の王と侍が俺達に気が付いて声をかけてくれる。
「はい、おかげさまで」
それを聞いて周囲に歓声が上がる。
「でも凄いですね。ここまで人間とモンスターが手を取り合って並んでいるなんて」
「なあに、これからよ。こっからエウトスはもっと良い国になるぞ」
「我々がこの国を停滞させた分、一層良くしないとな」
2人の王が胸を張る。
「儂もできるだけ見せてもらいますぜ。その景色を。ところで皆さんはどうするんですかい? 魔王を倒した後は」
侍が意外にもそう口にすると俺達が答える前に目を見開いた。
「はやく生きなせえ」
「ありがとうございます、皆に会えて幸せでした」
俺はそう口にするとダイヤの手を掴んだ。
~トーイス~
「倒したみたいですね」
「ああ、まあな」
黄金の景色が広がると同時にスペードが喧嘩をしたらしいラッドさんに答える。
「けっ、面白くねえ。ここに来たら冒険者ギルドの力を見せつけられたのによお! なあお前ら! 」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
セカマさんが周りに振ると周りの冒険者たちの歓声が上がる。何と心強い事か。
「皆、ありがとうございます。助かりました」
「気にすんな、世界のためってなっちゃゴルドとか言ってる場合じゃねえよ」
「え? お金受け取っていないのですか? 」
「たりめえよ、後でギルドに取りに来な。どうしても金を払いてえってんなら戦ったやつらと戦場になった街に配ってやんな」
そう口にするとセカマさんは冒険者たちに声をかける。
「おいお前ら魔王討伐記念だ。飲みに行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! ! ! 」」」
再び大きな歓声が上がった。
~スウサ~
視界に先ほどまでいたニンビギの様子が広がる。見ると建物は幾つか壊れているけれど負傷者がいる様子はない。
「おかげさまで負傷者0だよ」
レイズさんが報告をしてくれる。
「それはレイズさんのお陰ですよ、レイズさんのいるところに魔王が来てくれて本当に良かったです」
そう口にすると「姉さんだけか? 」とコール。
「勿論、ここに集ってくれたみんなのお陰だよ。本当にありがとう」
心からのお礼を皆に述べるとひょっこりとディールが顔を出した、彼女も武器を店長と共に提供してくれていたのだ。
「トゥーハさん達の手助けができて良かったっす」
「助かったよ」
ディールにお礼を述べるとどういうわけかコールが槍を構えた。
「今のとこ引き分けだからな。決着つけようぜ」
「ちょっとコールあんた何考えて」
「悪ぃ姉さん、でも今しかねえんだ」
「いや、あんた何言って」
「わかった」
俺は彼の誘いに応じて剣を抜く。
キィン!
俺の剣とコールの槍がぶつかって音を奏でた。
~スーノ~
突然寒さに襲われて暖を取ろうと両手を手前に寄せるとふいに暖かいものをかけられる。雪を遮るばかりか鎧が温められて生き返る。
「はいどうぞ、皆さんもこちらをおかけください」
セイが大勢の兵士を背に毛布を手にそう口にする。
「ありがとう、とても暖かいよ」
答えると彼女が雪のように白い頬を赤く染めながら微笑む。
「良かった、できる女王の力を実感したかしら」
「いや、それは……」
目を逸らすと彼女が「何よ」と頬を膨らませる。
「でも少し残念だわ、倒せたのは良いけれど魔王がここに来なかったのは」
意味深なことを言うので意図を読み取ろうと考えると心当たりが一つあった。
「そういえば、セイの軍の力をみていなかったね」
「違うわよ、私も……貴方達と一緒に戦いたかったのよ」
彼女が小さく呟く。
「って被害が出なかったことを喜ばないといけないのに、これじゃあ国の王失格ね。爺やに怒られてしまうわ」
「そんなことないよ、セイはずっと俺達と一緒に戦ってた。皆がいたからニンビギの人も俺達も全力で戦えたんだ。それに俺は出会った頃よりも今のセイのほうが好きだな」
そう口にするとともに彼女は微笑む。
「良かった……あら」
そう言って抱き着いてくる彼女は何かに気が付いたようだ。パッと身体を離して俺の頭に触れる。
「タオハ、貴方は本当によくやったわ。この国、いえこの世界を代表してお礼を申し上げます。本当にありがとう」
そう言うと俺から離れダイヤ達に声をかける。
「それでは皆さん、後はお願いするわ」
そう口にすると彼女は笑顔で俺を見送る、その瞳は濡れているように見えた。
~スウサ~
最後に俺達が来たのはドンカセの側の森の入り口だった。
限界だ。
俺はどっさりと膝をつくとガシャンと鎧が音を立てる。
「大丈夫ですかトーハさん」
「良くはないかな、でもお陰で最高の気分だよ、ありがとう」
3人を見てお礼を言う。最後にここに来た理由はゴブリンの身体は残るかもしれないと考えたためだ。そうだとしたら、せっかくなのだから街でやられるのも忍びないしここの森のゴブリン達に任せたい。
「もし何か悪さをするようだったら思いっきりやってくれ」
「ああ、そん時は思いっきりやらせてもらうぜ」
スペードが勢いよく答える。ちょっと傷つくけどありがたいことだ。
「それじゃあ……」
魂が身体から離れかかっている。別れの時だ、3人の顔を改めて見つめる。が、こんな時に限って何を言えばいいのかが浮かばない。湿っぽくもないけど最後に伝えたいことは何かあっただろうか。
「えっと……」
言い淀んで1つだけ浮かんだ。すぐにそれを言葉にする。
「そういえばさ、俺の名前トウハだから、トーハでもトオハでもタアハでもなくてトウハだから」
俺がそう口にするとよほど意外だったのか3人が目を見開く。
「そうだったのですか、大変な失礼を」
「いやわりい、本当に気付かなかった」
「……ごめん、ずっと間違えてた」
明るい雰囲気になった。俺が旅立つならこっちのほうが良い。
「じゃあ、元気で」
俺がそう口にした時だった、ダイヤが突然近くなったと思ったら唇に暖かい感触が振れる。
「忘れないよ、ありがとう。トウハ」
彼女の煌びやかな笑顔と共に俺の意識は光へと消えた。
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