15-17「侍の逃走」

 侍との激闘の翌日、アジトへ帰った俺はダイヤを見送り念のため侍を見張っていた。王様と多くのモンスター達が処刑を望んだけれどヤギリさんの到着を待つということで今は洞穴の1つに幾つもの木材が差し込まれた簡易的な牢屋に閉じ込めていて見張りのためにそこへ陣取っていたのだ。

 といっても、侍は命に別状はないものの未だに目覚めず話もできていないわけだけど……


 参ったなと頭を掻くと突然これまでと空気の流れが変わったことを感じる。今まで意識しなかったけれどこれが人の気配というものだろうか?


「ダイヤ? 」


 声をかけると再び空気が乱れた。どうやらかなり慌てている様子だ。


「ど、どうして私だと……まさか」


 やはりこの気配の正体はダイヤなようで動揺を隠せない様子の彼女、もしかして匂いを消す「ダッシューコ」の効果がキレて匂いでバレたと思っているのだろうか?


「気配でなんとなくね」


「気配……ですか。改めて買い足してきたので付け足そうかと考えましたが良かったです」


 安心した様子の彼女。そこで早速だけれど本題に入ることにした。


「それで何か分かった? 」


 腰掛けできるだけ小声で話せる様に右へ逸れると彼女はそこへ座ってくれたようだった。その後彼女は「実は……」と切り出すと彼女がクローバーと交換した情報を語り始めた。


「なるほどねえ、ヤギリさんは俺達と同じことを考えていたってことか」


「狙いは宝箱でしょうか」


「その可能性が高そうだ。それにしてもやられたなあ。堂々と両陣営を行き来していたなんて大胆なことを考えたものだ」


「お互い争っている中ならばバレようがありませんからね。でもトーハさんの仰る通り大胆な方ですね。たった一人でこのようなことを考えるだなんて」


「もしかすると裏に魔王がいるのかもしれない」


 恐れていることを口にするとダイヤがアッと驚いて見せる。


「魔王ですか。でも、ヤギリさんは人間ですよね」


「あくまで可能性の話だけど、そうでもしないと説明がつかない」


 そう言い終えた時だった。


「ただの兄弟喧嘩にそれを加熱させてる男……その話は本当ですかい」


 背後から声がして振り向くといつの間にかそこには策越しにこちらを見つめている侍の姿が目に入った。どうやら聞き耳を立てていたみたいだ。


「こちらにヤギリって名乗る眼鏡をかけた黒髪の男性はいらっしゃいます」


「なるほどねえ、となると嘘じゃなさそうだ。特に弟がいるなんて話を聞いたこともありませんし一杯食わされましたかね。首都に帰ってくるときはいつも透明になっってて妙だとは思っていたんすけどね」


「透明に? 」


 そう聞いて辺りをキョロキョロと見回す。今訪れたばかりのダイヤの気配は感じ取れたけれどヤギリさんが透明になってずっと見張っていたとしたら見落としていると考えたからだ。


「大丈夫ですよ、今ここに奴はいやせん」


 侍が自信たっぷりに言う。先程のことを考えると透明になっても気配を感じて見破ってそうな彼の言うことなら信頼できるので安心した俺は再び2人に向き直る。


「ただ、それも時間の問題でさな」


 確かにヤギリさんは侍が生け捕りになっていることを知ると自身が二枚舌を使っていることがバレるかもしれないと侍を始末しようとするかもしれない。今ここに侍を捕えておくのは危険だ。とはいえ、ここで逃げられてまた人間側につかないという保証はない。


 丁度訪れた沈黙をこれ幸いと何かいい方法はないかと考える。すると耐えかねたのかダイヤが耳元でささやく。


「侍さんにどうにか味方になって頂くことはできないでしょうか」


「それはモンスターの反対もあるから厳しいと思う」そう応えようした時だった。ダイヤの言葉でカチリと何かが当て嵌まり声を上げる。


「それだよ」


「いや盗み聞きさせてもらいやしたがモンスターとして戦うのはモンスターが嫌がるんじゃないですかね。そもそもそうする義理もない」


「そう、貴方にはモンスター側として戦う義理もない。でも、もう人間側につく義理もないのではないですか? それでも嫌なら……幾らで人間側に雇われました? 」


 尋ねると侍が溜まらず噴き出す。


「買収しようってんですかい? 一応実力は買われていたんでね、億はくだらねえですぜ」


 億、実力者が戦地で命を懸けるのだからそれくらいは当然なのだろう。侍の言う通り今の俺に1億ゴルドなんて大金はない。でも……


「じゃあ、これでどうかな」


 そう口にするとともにセイからもらった金塊を見せる。すると侍は驚いて目を丸くする。


「こんな上等なモノ一体どこで……」


「これでどうですか? 」


「本気ですかい? 」


 コロシアムで大金を稼いでいたこともありこれまで旅で使うこともなかったのでこれからも使うことはないだろう。老後の心配なんてものも俺にはなく無用の長物だと思いここで使うことにした。


 そんな俺の覚悟を読み取ったのか侍が折れる。


「分かりやした、そこまでされちゃあねえ。で、儂は何をすればいいんですかい? 」


「この牢屋からは出られますか? 」


「刀一本ありゃなんとかね」


「ならこちらを」


 柵の隙間から差し出した金塊を受け取ったのを見て刀を次にそこから入れる。


「今から少しの間、留守にしますのでその隙に牢屋から抜け出してモンスター達を殺めることなく港町へ向かい船でお引き取り下さい」


「本気ですかい? それだけでこれだけの金塊を? 」


「はい」


「…………引き受けやした」


 侍はそう口にする。


「それでは、お元気で」


 俺はそう言うとダイヤも付いてきてくれることを信じて牢屋を後にした。程なくして大騒ぎが起こった。侍が牢屋から抜け出したのだ。


「刀だ! あいつは刀を隠し持っていたんだ! 」


 俺は牢屋に戻り切り刻まれた策を見てさも驚いたように声を張り上げる。しかし、その頃には侍は洞窟の外へと飛び出していたようだった。洞窟内の騒ぎが大きくなった。


「侍さん、無事に逃げ出せたみたいですね」


「そうみたいだね、あとはこの国の問題だけれど」


「ヤギリさんがそのような工作を試みているならば王様お2人が顔を合わせれば宜しいのでしょうが」


 ダイヤがポツリと口にする。王2人が面会する機会を作る。確かそんなモノを以前見た気が……


 突如俺の頭が活性化し過去の記憶を掘り起こす。この方法ならいけそうだ。


「良い方法がある、俺達も反撃開始だ」


 そう口にすると胸を張って彼女に微笑みかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る