15‐7「モンスター軍の拠点」

 男と別れた後俺達は帰り際の彼と鉢合わせない様にとすぐさま町を音にしてモンスター側の本拠地を目指していた。ダイヤは姿と匂いを消しているのはこれまで通りだけど、これまでと異なることが1つ。それは俺が堂々と姿を晒して大手を振って歩いていることだ。モンスター軍の拠点を目指しているのだからモンスターでないと出会った時に会話もできないだろうとの考えからだ。


「そういえば、ダイヤさっき何か言いかけてなかったっけ」


「い、いえ何でもありません」


 ブロンドヘアの髪が左右に揺れる音がする。おそらく必死に否定しているのだろう。


「そっか」


 特に急用ではなさそうだったので俺はそう言うと歩を進めようとするもダイヤの足音が止まる。立ち止まったようだ。


「どうしたの? 」


「あの、トーハさんさえよければ手を繋いでくれませんか。そうすれば私の場所もわかりやすいですから」


「確かに、その方が俺も有難いかな」


 彼女の提案を快諾するも不意に顔が熱くなる。それを誤魔化すために俺は右手を手を繋げるように身体から少し離してみせる。


「これでいいかな? 」


「……はい」


 彼女の声がしたと思った次の瞬間、俺の右手は暖かい感触に包まれた。恥ずかしくなって思わず彼女がいるであろう右側を向けず目を左側に逸らす。


「それじゃあ、行こうか」


 恥ずかしさを感じながらかろうじてそう告げると再び歩き始めた。


♥♢

 平地を歩き山を登った先にあるモンスター側のアジトは洞穴のようだった。一見ただの洞穴のようだったけれどチラリと見える見張りの数に洞穴の正面に立つリザードマンの武装や体格の良さと厳重ともいえる警備がそれを物語っている。

 モンスターの姿だったから楽だったものの恐らく、この山には幾つもの罠が張り巡らされていてここまで来るのは至難の業だろう。


 俺の右手の形が変と指摘されないようにと気を遣ったのかダイヤの手がふと離れ冷たい風に右手が晒される。それと同時にリザードマンと目が合った。


「どうした、何かあったのか」


 どうやら軍の諜報部隊か何かと勘違いされたみたいだ。見張りがゴブリン一人一人の顔を覚えているわけもないので仕方がないのかもしれない。このまま諜報部隊として活動をするのも良いかもしれないけれどそれではいつになるのか分からない。長引けば長引くほど侍に斬られるモンスターが増えてしまうだろう。手短に済ませるためにもここは強引な手段を取ることにするか。


 そう決断した俺は思い切って口を開く。


「いえ、私は軍の者ではございません。たまたまこの国を訪れたゴブリンです、しかし私がこちらの軍に入れば瞬く間に戦争はファーガス王の勝利で終わることでしょう。そのために王様と直談判に来ました」


「王様と? 何を言うか。ちょっとガタイは良いようだが1人で勝利をもたらすなんて不可能に決まっているだろう」


 俺から見て左側のリザードマンが鼻で笑うと右のリザードマンが腹を抱えて笑いながら俺を指差す。


「違いない、旅の者を名乗るなんてすぐバレる嘘までついて。そもそも人間の言葉を話せるということはこの国出身の証拠ではないか」


 言われて気が付く。


 そういえば何気なく人間の言葉で話しかけていたけれど彼らはリザードマンだ。それが人間の言葉を話しているというのは恐らく王の教育の賜物なのだろう。確かにモンスターと言っても様々なので意思疎通を図るための共有語として人間の言葉を選んだということだろう。

 と感心している場合ではなくこの場で人間の言葉を話せる理由を述べて誤解を解かないといけない、いやそれも意外と時間がかかりそうだ。この際仕方がないか。


 一度吹っ切れるとその後は意外と容易いもので不敵に笑う。


「でしたら、お2人で向かってきて試してみますか? 」


「たった一人なのにいい度胸じゃねえか」


 リザードマンが吐き捨てるように言う。


 実際はこちらにも姿が見えないとはいえダイヤがいるので同じ条件なのだけれどそこは秘密だ。


「どうぞ」


 自信たっぷりに言う。


 いらぬ戦闘な気がするけれど名の上げて侍と戦うためにこれは恐らく一番の近道だ。


 深呼吸をするとリザードマンに視線を向ける。


「後悔しやがれ! 」


 2体のリザードマンが手に構えた剣を持ちこちらへと向かってくる。まず左のリザードマンが振り下ろした剣を左に躱すと手を目掛けて右足で蹴りを入れる。


「ぐっ」


 狙いは的中してリザードマンは悲鳴を上げるとともに剣を落とした。すかさず背中にさしてある大剣を抜いて真っ二つに斬るジェスチャーをするとそのままあんぐりとしている右のリザードマンにも同じように斬って見せるジェスチャーをした。


「これが実際に剣を抜いていたら俺達が死んでいたってことか……なめんじゃねえ」


 激高した2体のリザードマンが一直線にこちらに向かってくる。それを見て俺はすかさず右掌を翳す。事前に決めていた『盾の魔法』を発動するための合図だ。


「「『シルド』! 」」


 ダイヤの声が聞こえない様に重ねる様に呪文を唱えるとすぐさま出現したシルドが2体を弾き飛ばす。


「ぐっ、魔法が使えるのかよ」


「なんだこいつ、はったりなんかじゃねえ、つええ」


 リザードマンがぶつけた顔を手で押さえながら言う。それを見て俺は手を下げる。


「これでいかがでしょうか? 王様の所に連れて行ってくださいますか? 」


 リザードマンが俺の質問に揃って首を縦に振って返した。

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