幕間「犯人」
「スペードさん、犯人が今夜お花屋さんに現れるというのはどういうことですか? 」
何とか彼女に追いついた私は街灯を頼りにお花屋さんへ向かうまでの道中で彼女にそう告げた根拠を尋ねる。
「それはだな、ダイヤは知らねえかもしれねえけど。ニンビギの花屋ってのは日が昇る前の早朝はやってねえんだ」
私が尋ねると彼女は自信満々にそう言い切った。
「そう……ですね」
「おっと何だその顔は。いやいやまあそんなことは誰も知ってるか。昔オレはこの町に泊った時それを知らなくて朝起きてすぐ花屋に向かってオヤジに怒られたけどな……とその話はともかくとしてだ。ダイヤがそいつのこと尋ねても特に目新しい情報は得られなかったんだろ? 」
「はい」、と私は頷く。
「だとしたらだ、今日そいつはまだ花屋に行ってないってことだ。そして早朝花屋は開いてねえってなると」
そこまで聞いて彼女の言わんとしたことが分かって「あ」と声を出す。
「これからお花を買いに来るということですね」
「そういうことだ、まあこの間に買ってたとして今日逃しても買えたってことが分かってりゃ遅くても明日まで病院を張ってればそいつとご対面だ」
「何か、トーハさんみたいですね」
ふと自分でもどうしてか分からないけれどそう口にする。
「まあ、あいつと付き合いも長いから影響受けてんのかもな」
照れるように笑う彼女を見て私は少し悲しい気持ちになった。この正体の分からない不安は一体何なのだろう?
「お、着いたみたいだ。行ってみようぜ」
結局、その正体が分からないまま目的地のお花屋さんに到着した。私は再び彼女を追いかけていった。
♢♤~
「いらっしゃい……貴方は先ほどの」
お花屋さんに入ると先ほど見た20代前半らしい女性店員さんと目が合ったので会釈をする。
「黒色の鎧の」
「いえ、銀色だったと思いますが」
「でも剣を持っていただろ? 」
「いえ、武器らしきものは何も持っていなかったと思います」
「じゃあたまたま持ってなかったのかもな。結構ぶっきらぼうな奴だし」
「いえ、見た感じですと礼儀正しい人でしたけれど」
「おっかしいな。気のせいかもな、ありがとな。行こうぜダイヤ」
彼女は意外そうにそう口にすると店を後にしたので私も会釈をすると店を出た。
「スペードさん、今のはもしかして」
「ああ。普通って言っても色々あるからな。こっちから適当な情報言っとけば向こうも思い出しやすくなるかなって思って適当に尋ねたら案の定だ。手掛かりゲットだ! 銀色の鎧を着た武器を持っていない礼儀正しい奴が犯人だ! そんな見た目の奴がいたらとっ捕まえてやろうぜ」
「はい」
彼女の機転を頼もしく感じて犯人の特徴を頭の中で
「あれ? 」
何かが引っ掛かった。その何かは喉まで出かかっているような気がするけれどあと少しの所で出てこない。何とか捻りだそうと目をギュッと
「すみません、あのお客さんが何かされたのですか? 」
綺麗な声がしたので目を開けるとそこには先ほどの女性店員さんが立っていた。
「いや、まあ……その何かしたって言うかその」
抱いている疑惑をそのまま彼女に打ち明けるわけにもいかずに返答に困っているとスペードさんがモゴモゴと答える。
「あの人、そんな悪い人ではないと思いますよ。入院している人へのお見舞いにって仰っていましたし」
「いや、それはだなあ」
入院している人への贈り物、確かにウソではない。そう言う言い方もある、でもその一言でカチリと私の中で当てはまった。
「もしかして、その人の接客を別の方がされていたりしませんでしたか? 」
私がそう尋ねると彼女が「ええ」と首を縦に振る。
やっぱり、そういうことだったんだ。
「おい、どうしたんだダイヤ、今の尋ね方はまるで犯人の見当がついているみたいじゃないか」
「はい、スペードさん。私、犯人が分かりました」
私はスペードさんに微笑みながらそう答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます