8‐7「チートメンバーで構成されたパーティー」

 翌日、小鳥がチュンチュンとさえずりをする中、俺達はディールを先頭にブンセの街を歩いていた。目的地は町長の家だ。なんとディールが船と船員について町長と話をつけてくれたということだ。


「トーハさん」


「どうしたの? 」


 ふとダイヤに名前を呼ばれたので彼女を見る。すると彼女は満面の笑みを浮かべながら言う。


「なんでもありません」


 ダイヤとのこう言ったやり取りはこれで数回目だ。その原因は昨日の件だった。正直まだ気恥ずかしさはあるけれど、彼女が何とも思っていないような様子とまた『強化の魔法』のフィードバックでお世話になるかもしれないから、と自分に言い聞かせることにより以前のように接することができるようになっていた。彼女にも申し訳ないことをしてしまった、とあの時の自分の行動を悔いる。


 チラリと前を歩いているスペードを見る。昨日はあれだけ茶化したスペードだけど、今回のこのダイヤの行動については気付いていないのかどういうわけか何も言ってこない。それどころかディールに何やら話しかけてとダイヤにチャンスを与えているような気がするのだ。彼女が何を考えているのかが全く分からない。


「トーハさん」


 その時、ダイヤに呼ばれて再び彼女のほうを見る。


「何? 」


「スペードさんがどうかしたのですか? 」


「え? いや別に何でもないよ」


 また「何でもない」、と来るだろうと予想していたところが外れたばかりか今考えていたスペードのことを触れられてしまったので動揺しながらも答える。


「そうですか」


 彼女はそう言うとまた前を見て歩き始めた。


「……ったく、何やってんだか」


「まあまあ、見た感じゴブリンさん鈍感っすから」


 スペードとディールのそんな会話が聞こえた気がした。


 ♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤♥♢♤


 それから相変わらず人だらけの広場を通過した後前回通った通りを展望台と広場の丁度中間辺りまで歩いたところでディールはクルりと方向転換をした。


「ここが町長の家っす! 」


 そう言って彼女が見上げる家は町長の家と言われれば納得するほど大きな赤煉瓦の家だった。


「ごめんくださ~い」


 ディールがそう言うと「はーい」という声が建物の中から聞こえた。中からドタドタと人の歩いてくる音が聞こえる。その時だった。


「あ」


 ディールが大事なことを思い出したとばかりにピョコンと飛び跳ねる。


「1つ言い忘れていたっす。今回町長の協力を得るために仕方なくっすけどこれまでのゴブリンさんたちの戦いを全部お話したっす」


「そうなんだ」


 俺は何となくそう答えた。というのもサイクロプスから始まるモンスターとの戦いは思い返すと今でも勝てたのが信じられないくらいなので信用されないかどうかが不安なだけで別に隠しておくことではないと思ったからだ。むしろ一連の話をして信じてくれたというのなら万々歳だ。


「まあ、いきなり来たよく分からない冒険者に船を出すってわけにもいかねえからな」


 スペードも表情を変えずに言う。彼女の言う通りだ。幾ら知り合いらしいディールの紹介とはいえ勝てる見込みがない冒険者だったら首を縦には振らないだろう。


 どういうわけか俺とスペードがディールを咎めたわけでもないのは彼女はプレッシャーを感じているとばかりに困惑の表情を浮かべていく。


「ディールさん? どうかなさったのですか? 」


 ダイヤがそう尋ねた時だった。


「おお、お待ちしておりました! 明日以降になるかもと聞いていましたがこんなに早く来ていただけるとは! 」


 50代ほどの丸い顔の男性が扉をガチャリと開けて現れた。町長とは思えないほどの物腰の低さだな、と思う。


「ちょっと早かったっすけど今日で大丈夫っすか? 」


「勿論ですとも! 船員も船も今は有り余っておりますので、ただ一つお伺いしたいのが船の件ですがどのような船をご希望ですか? 」


 町長の問いにディールは答えず俺に視線を送る。そうだ、俺は倒れる前に船を2隻と言うだけしか作戦を説明していなかったのだ!


「1隻は2隻分の船員さんが乗れるくらいでもう1隻は大きさはお任せします。ただ、囮として使うために壊れてしまいます」


「と言いますと? 」


 町長が船が1隻壊れると聞いて目を丸くする。しかし、ここで引くわけにはいかない!


「リヴァイアサンは海域に入るとたちまち水中から襲ってくるとお聞きしたので潜入するためには船がもう1隻必要なのです。船を1隻買取ということでどうかお許しいただけないでしょうか」


 俺がそう言うと町長は両手を突き出して全力でブンブンと振る。


「いえいえ、お金をいただくなんてそんな滅相もない。船をみすみす壊すというのは確かに心が痛みますが今まで何隻も破壊されております故1隻であの憎きリヴァイアサンを倒せるということでしたら仕方のない犠牲というものです。こんな素晴らしいお三方に来ていただけただけでも奇跡と言わざるを得ないことでしょうに……」


 町長がそう言うとともに何故かディールがビクン、と大きく震えた。


「そんな大袈裟だぜ町長」


 スペードが手を制するように動かしながら言うと突如町長は真剣な顔をする。


「大袈裟なんてことはございますまい。あなた方のご活躍はディールさんからお聞きしました。まずは杖を持っている貴方がダイヤさんですね? 」


「は、はい! 」


 言われてダイヤが返事をする。


「ダイヤさん、貴方は全身が岩でできたゴーレムを一撃で破壊する攻撃魔法をお持ちのようですね? 」


「え、え? は、はい! ? 」


 ダイヤが困惑した様子で答える。何だろうこの、間違ってはいないんだけど若干ニュアンスが違うこの感じは。


「そして、貴方がスペードさんですね」


「お、おう」


 どうやら次はスペードのようだ。


「スペードさん、貴方は見事恐れられた御屋形様の亡霊を瞬く間にお得意の剣技で切り裂いたとお聞きしました」


「お、おう? 」


 スペードからはかなりのギリギリの戦いだったと聞いただけに如何にも他愛ない相手だったみたいな言い方は彼女も引っかかったようだ。


「そして、最後は鎧の貴方」


「はい」


 最後は俺の番のようだった。ものすごく嫌な予感がして思わず目が泳ぐ。


「貴方は特に素晴らしい方とお聞きしています。サイクロプスを一撃で倒すパワーにケルベロスを振り切る俊足、分身する忍をも倒し冒険者が手を焼いていたワームをも見事に倒したと」


 あまりの話の誇張ぶりに穴があったら入りたい気持ちになる。もしかするとダイヤとスペードもこんな気持ちなのかもしれない。どうしてこんな辱めにも似た行為を受ける羽目になったのか。そうだ、こんな思いをする羽目になったのは……


「あ、ちょっと店長から大事な用事を任されていたのを忘れていたっす! ししし失礼するっす! 」


 俺がディールを掴もうとするも身軽にそれを躱して彼女は扉から出ようとする。


 くそ、逃がすか!


 場所を忘れて追いかけようとした振り返ると。


「ディールさん、今日は1日お付き合いしてくれるお約束でしたよね? 」


 意外にもダイヤがディールを捕えていた。


「そ、そうだったっす、申し訳ないっす」


 すっかり震え上がった様子でディールが答える。


「まあ、仲がいいのはいいことですね。それではそうですね、2時間後に船員と船を用意しますのでそれまで2時間後に港へお越しいただけますでしょうか」


「かしこまりました」


 俺はそう答えるとディールが逃げないように3方向から囲むようにしながら町長の家を後にした。


「本当にすみませんっす! 」


 町長の家を出た直後、ディールが即座に謝罪する。その様子を見たらもう彼女を咎めることはできなかった。ポン、と彼女の肩に手を置く。


「まあ、町長を説得したかったって気持ちはわかるけどさ……盛りすぎだよ」


 主に俺が、もう何かお前1人でいいんじゃないか並みに盛られていた気がする。けれども実際は絶体絶命の中皆の協力があって倒せたというわけで余りにも現実と乖離していたため恥ずかしかったのだ。


「まあ、1番言われてたトオハがそう言うならしゃーないか」


「そうですね、ディールさんも悪気があったわけではないようですし」


 どうやら2人もこれ以上彼女を咎める気はないらしい。


「本当に申し訳ないっす! 」


 ディールが再び謝罪の言葉を口にする。


「お返しと言っちゃなんだが、これからは町で人と話すたびに凄腕の女商人がいるって広めることにするわ」


「あ、それはいいですね」


 ニヤニヤするスペードにダイヤが同調する。ささやかな仕返しとして俺も彼女をからかうことにした。


「彼女目当てに全国から人々がその馬車を探し回るため常に馬車には長蛇の列ができるとか広めちゃおうか」


 俺がそう言うと今まで耐えてたであろうディールが赤面してワナワナと震える。


「そ、それはち、ちょっと嬉しい気もするっすけどやっぱり恥ずかしいから勘弁してほしいっす! 」


 町中に響くような声で彼女が訴える。恥ずかしかったけれど船と船員は用意してくれるみたいでこれからリヴァイアサンと戦う前のいい気分転換にもなって結果的には良かったかもしれない。


 そう思いながら俺達は広場のほうへと歩いて行った。

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