3-4「ドンカセの村」♢

 トーハさんと別れてからドンカセに向かう。彼が1人で森を偵察すると言ったときは本当に焦ったけど約束は守ってくれる人だからその点においては心配しなくても大丈夫だろう。ドンカセの森は昔入ろうとして危険だと止められたので今回入れたのは嬉しかった。1つ幼い頃の夢が叶ったのだ。とはいえ、奥まで進むとなるとケルベロスと遭遇したり他にもどんな危険があるのだか分からないのだから1人で森の中に入ろうとするトーハさんは凄いと思う。


 荒野を横切って街へと向かう。岩が幾つもあるのでどこかにモンスターが隠れていないかとドキドキしながら通っていくと門に辿り着いた。門にはニンビギと同じように2人の武装した兵士が立っていた。


「ようこそドンカセへ! 先ほど門の付近で馬車を降りた方ですよね? 」


 兵士が不審顔で尋ねる。私みたいに村の前で下りるというのは珍しいのだろう。


「それが、ケルベロスを倒そうとしたのですが怖くて足がすくんでしまって………………」


「そうだったのか、まああいつは君みたいな見たところ冒険者になりたての子じゃ無理だろうな。何人も同じこと言うのがいたが運良く逃げ帰ってくれば良い方さ」


 男は深刻そうに告げる。


「兵隊さんは動かせないのですか? 」


「王様もそうしたいんだろうけどお手上げです、軍隊は対人に関しては優れていますがモンスターとなると他のモンスターにも狙われるのに加え真っ向から太刀打ちもできないので橋の広さから考慮して人間の村に手を出さないのをこれ幸いと様子見状態です。だから今王様が腕利きの冒険者を探しているんだとか」


 兵士が両手を挙げてお手上げのポーズをして言う。


「そうでしたか」


 王様は自分の前では億尾にも出さなかったけど苦労していたんだ…………。


 明るく振舞っていた王様を思い出して気を遣わせてしまったと心が痛む。この国スウサの状況はかなり深刻なようだ。このまま刺激しないために戦わないという手は確かに有効に思えるけど……それもいつまで持つか分からない。私の村のゴブリンのように別のモンスターからの襲撃が行われることもあり得る。トーハさんの話によると原因は食料が尽きたからだと言っていた…………この村も時間の問題のように感じる。


「長く引き留めてしまってすみません、どうぞお通りください」


 兵士が道を開けてくれる、「ありがとうございます」とお礼を言った後に私は村の中へ入って行った。


 ドンカセの村は門をくぐるとまず目に入るのは木造の屋台だ。ここで冒険者に必要な薬草から武器から生活に必要な食べ物も手に入る。必要最低限な物が揃っている。民家は赤い屋根の下に白いレンガで組み立てられている家が多い。


 子供のころはどれも同じ家に見えてよく迷子になったっけ……。


 懐かしさに浸りながらもおばさんの家の地図を頭に描きながら民家を曲がる流石にもう間違えることはないと道を曲がる。


 最初の突き当りを曲がって3軒目が親戚のトルマリンおばさんの家だ。


「トルマリンおばさん、すみません! ダイヤです! ! 」


 茶色のドアについているペガサスマークのドアノッカーを手に掛けコンコンと叩く。すると中から「はーい」という声が聞こえドタドタと音がしたあとにガチャッとドアが開き中から薄緑色のビロードに赤いネックレスをつけた女性が現れる。


「あらあらダイヤちゃん! 大きくなったわね~。お父さんから旅に出たと手紙と小包が来てそれからはいつ来るかとずっと待っていたのよ~。もう3年ぶりかしら? 」


 トルマリンおばさんが元気に大きく開いた口から陽気な声で伝える。


「はい、お久しぶりです、トルマリンおばさん」


 3年前、トパーズ兄さんが出発する前に家族みんなで訪問したのが最後だった。お互いに辛いと思っていたのだ………………


「それで……アゲートさんからは何か? 」


 アゲートさんはトルマリン叔母さんの息子で5年前に旅に出て数か月後に消息が途絶えたらしい。

 その知らせを聞いた時、昔一緒に遊んでいた私とトパーズ兄さんは胸が張り裂ける思いだった。いや、トルマリン叔母さんに関してはそれ以上だっただろう。3年前に訪れたときも無理に笑っているようで見ていて辛かった。今はそれよりは楽になったみたいだけど……。


「何も…………連絡も寄越さないでどこで何をしてるんだろうね。あのバカは…………」


 叔母さんが遠い目をして言う。


「トパーズ君のほうは? 」


「兄からも数か月前から連絡は何も………………」


「そっか………………冒険者になると言ったとき意地でも止めておくべきだったよ。それかトパーズ君とダイヤちゃんが18歳になるのを待っていれば良かったかねえ」


 私たちは昔3人で冒険者の【ジュエリースリー】という冒険者パーティごっこをして遊んでいた、トパーズ兄さんが剣士でアゲートさんが槍使い、私が魔法使いだ。それで村の周りの事件を解決したりオパール父さんたちと怪獣ごっこをして遊んだっけ………………。


「ああごめんね、立ち話もなんだから入って入って! 」


 叔母さんに背中を手で押され中へ入る。アゲートさんの家の中はフローリングの床にグレーのカーペットが敷かれていてその上に赤い椅子とテーブルが置かれている。何かご飯を作っていたようで美味しそうな香りが漂っている。

 ────3年前と同じだった。あれからこの家は時間が止まっていたかのように変わっていない……いや、私が知らないだけでもしかするとその前から………………。


「あの子の部屋もいつ帰ってきてもいいのにそのままにしてあるのよ」


 椅子に座るように椅子を引いて促してくれる。


「トパーズ兄さんの部屋も同じです」


 頭を下げて座りながら答える。私の部屋の隣はトパーズ兄さんの部屋だ。父と母は物置にでもしようかなんて私のいる前では言っているけどあそこを夜な夜な母が掃除しているのは知っていた。


「そうなの………………。どこの家も同じね」


 叔母さんの言葉を合図に沈黙が訪れる。こういうとき何を切り出せばいいのか決められずにいると叔母さんがポンと手を叩いた。


「さてと、暗い話はここまでにしましょう! せっかくダイヤちゃんが来てくれたんですもの! 何か楽しい話をしましょう! ! 」


 それから私は叔母さんの3年間の話を聞いた。することがないから花を買って育てるようにしたこと、地域の人たちと一緒に色々な料理を研究するようにしたことと沢山のお話を聞いた。


「でね、隣の隣のダイヤちゃんが昔私の家と間違えて入った家のおばさんなんだけど、何と鍋の中にデザートを入れだしてね! あの時はびっくりしたよ~。何で鍋にデザートを入れるのよって! ! おや、もうこんな暗くなってるね」


 ふと窓の外が暗くなっているのが目に入ったのか言葉を切り心配そうな顔をする。


「ダイヤちゃんこんなに引き留めて悪かったね。よければだけどもう夜も遅いし泊まっていくかい? いやそれは無理だろうね………………確かオパールからの手紙によると連れがいるんだろう? 」


「いえ、それなら大丈夫です。彼とは明日落ち合うことになっていますのでよければお言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか? 」


 恐る恐る尋ねる。すると叔母さんは二ッコリとして


「勿論、大歓迎だよ。なかなか気の利く男じゃないか。そうさねえ私も随分と話をしたし今度は……」


 叔母さんが言葉を切ってニヤニヤしながら続ける。


「その彼の話でも聞かせてもらおうかねえ」


 彼とはそういう関係ではない………………はずなのに私の頬がぽうっと赤くなるのを感じた。

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