1-15「ジョーカーはダイヤ」

「それで、これからどうします?さっき話したように私は攻撃魔法を使えません………使えるのは防御魔法と回復魔法だけですが、本当に私で良いのですか?」


 彼女が戸惑いながら聞き返す。こちらとしては勿体ないと思っているのだけれどそんなに謙遜することだろうか?


「まずは、ニンビギに向かおう。冒険者登録をしないとね。攻撃魔法は仕方がないさ。敵が悪の魔王で場所が魔王の城なら一発いける?」


「はい、それなら周りに巻き込む恐れがないので多分行けます!」


彼女は両手で握りこぶしを作って言う。


「それなら尚更いざという時、魔王戦の切り札になると思えば心強いよ!オーブの件もだけど、それほど強力な呪文ならむしろ乱発しないほうが変に魔王に警戒されなくていいかもしれない。魔王までは俺が責任をもって連れて行くから!」


 今は魔王の手の内も場所も分からない状態だ。部下もどこにいるかは分からない。初めから強力な魔法使いがいる、と目を付けられるよりは魔法をいざというときのために温存しておくほうが旅もしやすいし、他にも何種類かあるというオーヴを見つけるのも楽になることだろう。理想としてはただの冒険者パーティーとして魔王の前に立ち、油断したところを一気に彼女の魔法で倒す………だ。

 道中は攻撃手段はほとんど俺だけになるだろうけど、一番困難であろう魔王戦をすぐ倒せるのだとしたら苦労もお釣りがくるというものだ。まあ、魔王戦でも彼女が攻撃魔法を使えないとなったらそのときはその時だ。戦ってダメだったら何とか彼女だけでも逃がして潔く天寿を全うするとしよう。

 ダイヤはこんな自分で良いのかと言ってくれたがむしろ、こんな強力な魔法使いと旅ができて良いのかとこちらが不安になる。


「でも、そうしたらトーハさんも巻き込まれてしまうかもしれませんよ?」


彼女が恐る恐る言う。


「大丈夫だ、できれば俺がピンチの時は助けてほしいけど俺はゴブリンだからさ。むしろゴブリンが魔王と一緒に消し飛べるなんて夢のようなことだからその時が来たら気にせずに一発かましてほしい!」


 冗談を言う。そもそも村1つ消してしまうというほど強力なら、例えば俺がモンスターに首を絞められたり襲われたりしているときに攻撃魔法を使ったら俺もモンスターもろ共消し飛ばされてしまうだろう。


「はい、勿論です!トーハさんがピンチの時は助けます!!」


 彼女は力強く頷いた。冗談と分かったのか分かっていないのかは分からないけれど、少し手が震えているのをみて無理しているのだと悟った、本当にいい子だなと思う。


「それじゃ、改めてよろしく!」


 俺はダイヤに握手をしようと手をさし伸ばす。しかし自分の手を改めてみて身体がゴブリンなことを思い出す。幾らパーティーとはいえゴブリンと握手は嫌だろうと慌てて引っ込めようとすると、ダイヤはその手を優しく握った。


「はい、よろしくお願いします!トーハさん!」


 彼女に握られている手をまじまじと見つめる。ああ、本当にいい子だと改めて思った。


「あ、すみません。その傷、お父さんがつけた傷ですよね?すぐに治します!」


 ダイヤが俺の右の頬をみてハッとしたように慌てて言う。そういえば、右の頬はオパールさんに斬られて触ってみると少し血の流れは止まったようだ。しかし、今まで顔から血を流したままだったのか…きっと酷い顔をしていることだろうと無性に恥ずかしくなった。

 そうしている間にもダイヤは杖を持ち優しく俺の頬に手を当てる。


「待った!」


 俺は思い立ったように突然声を上げた。突然の声にダイヤがビクっと震える。


「驚かせてごめん、でも傷はこのままでいいよ。」


「え、どうしてですか?」


 ダイヤが不思議そうに尋ねる。傷を治せるのに治さない、なんて自分でも理屈では分からないことだ。


「えー…っと、男同士の誓い……ってやつかな?」


 彼女のことを守るとオパールさんと約束した。その誓いを顔に刻み込んでおこう、としたのだけれど口にしてみると恥ずかしいなあ。

 きっと今頃、俺の顔は真っ赤になっているだろう。いや、流れた血が固まっているおかげで常に赤黒く大丈夫か?そもそも緑色だから赤くなるなどなく悟られずに安心だろうか。そうだとしたらゴブリンの身体に感謝だな。俺の中でこの羞恥心を悟られないようかどうかでそのような思考が渦巻いた。


「ふふっ…そうですか、わかりました。」


 ダイヤは笑顔で笑った。この反応はどうやら………隠しきれていなかったようだ。両手を頬にあててみるとほんのり熱を帯びている気がする。ダメだったか………と落胆する。穴があったら入りたい。


 と、こうしてはいられない。陽が昇ったということは何かしらの要件でそのうち人がこちらに来るということだ。そのときに見つかってゴブリンだ何だと騒がれては面倒だ!何より、早く誤魔化すことにしよう!


「は、はやく行こうか!今日中につかないと大変だし!」


「そうですね。ニンビギはこの道に沿って歩くだけの一本道です。」


 彼女はまたわかっていますというように周りが草木が生い茂る緑の中土色に染まっている道を指さしながら、ふふっと笑った。


 照れくさいが仕方ない。


 いざ、まずはダイヤの冒険者としての資格を得るためにニンビギへ!俺たちの冒険はこれからだ!


ダイヤが仲間になった!


ステータス


【名前】ダイヤ・ガーネット

【職業】魔法使い(冒険者未登録)

【種族】ヒューマン

【武器】伝説の杖

【筋力】D

【魔力】A+


阿藤踏破ステータス


【名前】阿藤踏破

【職業】会社員

【種族】ゴブリン(ヒューマン)

【武器】棍棒、蒼速の剣

【筋力】C+

【魔力】─

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