1-4「ここは地獄か?」

「敵だ!ゴブリンだ!ゴブリンの集団が攻めてきたぞおおおおおおおおおお!!!!」


 案の定見張りの兵士たちに見つかり、何やら騒がしい警報音が辺りに鳴り響いた。


 おいおいマジか───


 まさかのハードプレイとは仕方がない、こうなったらゴブリンの女神さまに会うために何としてでも生き延びてやる!


 既に3列体制は後ろから我先にと走り抜き去っていくゴブリンたちにより崩れ崩壊していた。俺も彼らに続いて野を駆ける!地獄の400メートル走のスタートだ!!!


 ビシュっ!ビシュっ!ビシュっ!


 見張りの兵士たちにより次々と矢が放たれる。動く標的を狙うというのは難しいのだろう。標的の現在地から次の位置を予測し矢を放つか、手当たり次第に打っているのかどちらかは分からないが予測をさせないために無駄にランダムにジグザグに走り抜ける!


「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 周囲で矢で貫かれたゴブリンが断末魔のようなすさまじい悲鳴を上げる。生きているだけ幸いだが痛みで立ち止まってしまっては向こうの弓兵にとっては止まっている的を射抜くなんて造作もないことなのだろう、次の矢で確実に急所を撃ち抜かれていた。


 ビシュっ!と矢が放たれ俺が規則的に走っていたらいたであろう場所にグサッ!と突き刺さる。


 もしあのまま走っていたら───と考えるとゾッとして足が震える状況だったけどここで立ち止まったら格好の的でしかないので無理矢理にでも足を動かす。


 こうして、悲鳴に沢山転がるゴブリンの死骸と何とか地獄のような400メートル走を奇跡の被弾ゼロで門までたどり着いた。


 目の前の大きな門の前の橋には既に何体かのゴブリンが辿り着いていた。


「ギギ!ギギギギギギギギギギギギギギギギ!」

【ボス!今の攻撃で多くの犠牲が!】



「ギギギギ!ギギギギギギギギギョギギ!」

【なんだと!飛び道具とは卑怯な!】



 そんな会話が聞こえる。

 恐らくゴブリンたちは弓矢というものを知らないのだろう、そればかりか見張り台の意味も分からなかったのではないだろうか。それ故に突撃してしまった───


───と考えている暇はない!幸運にもここまでたどり着いたものの鉄の扉を壊さなくては矢で一人残らず射殺されてしまう!


 ピュンッ!


 俺たちを狙って矢が放たれた。しかし、来る方角と狙いが粗方分かっているのなら───


 ガギィン!!


 俺は矢を棍棒の固いものの部分で受け、そのまま弾き軌道を変えた。



 ここまででゴブリンについて2つ分かったことがある。


 1つ目は───こんな小さな身体で棍棒を持つ故か人間よりも力はあるということ



 この力もあったからこそ矢を弾くなんて真似ができたのだろう。そして信じられないことにゴブリンたちの攻撃でベコンッ!ベコンッ!と鉄の門が壊れかけている。パワーはかなりのものだろう。



 ではなぜこのゴブリンがよくゲームでは雑魚エネミーとなるのか、それが2つ目だ。

 何と彼らは───


「ギギギギェ!」

【どけどけェ!】


「ギギギギギギギギギギ!」

【俺が一番乗りだ!】



 致命的に───


「ギギ!ギギギギギギ!」

【バカ!上に乗るな!】


「ギ、ギギギ!!」

【お、落ちる!】


「ギアアアアアアアアアアア!」


 ドボン!!


────頭が悪いのである。



 ちなみに、このように協力すべき状況で我先に一番乗りしようと別のゴブリンの上に乗りバランスを崩しそのまま塀の下の池に落ちたのは確認できるだけで───これで5体目だ。矢で撃たれたものや塀の下に落ちたものを数えると数十体いたゴブリンは気がつけば半分ほどになっていた。



 ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!



 ゴブリンたちが何度も何度も門を叩く、前述の通り力に関してはかなりのもので叩かれる度に門は苦しそうにベコベコと膨らんでいく。見張りの構造から門の真下となると死角になるのか既に門が突破されたことを考慮して門の前に陣取っているのか定かではないが、俺たちは1点に集中しているので撃ち続けられるとまずい!早めにここを突破しなくてはいけない以上、この力はありがたい。



「ぎぎぎぎぎぎぎゃああああああああ!!!」

【うおおおおおりゃああああああああ!!!】



 ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!!



 ボスが勢いよく放った一撃により、遂に門は悲鳴のような大きな音を立て壊された!!!


「あの門を破るとは…化け物め!!!!」


「来たぞ!!!迎え撃てええええええええええ!!!!」


「ゴブリンめえええええええぶち殺してやるううううううううう!!!!」


────一難去ってまた一難。

 予想通り鉄の門をくぐり抜けて安堵する間もなく門の付近で待機をしていた兵士たちが戦闘態勢を取る。兵士という言葉通り皆銀色の鎧に帽子のような鉄でできたであろうものを頭に被り片手には剣を持っている。その数なんと───30人ほど!


 森へ逃げようとするものなら先ほどの弓兵に矢で蜂の巣にされるであろうが正面には武装した兵士たち。


 正に2つの地獄の刑に挟まれどちらに進むかの選択を迫られているような状況だが、死ぬつもりは毛頭ない!!!俺にはほかのゴブリンとは違い冷静に考えることができる力がある!!!


 この状況をどう突破するべきか、思考を巡らせ始めた。

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