第5話 学校生活(2)

 授業が始まり、ノートをとる。ノートをとってもいつもテストでは点をとれないがとらないことには何も始まらない。授業はちゃんと受ける。ただし、先生の雑談の時には窓の外を眺めていた。


 午前中の授業が終わり、お昼の時間は騒がしくなる。

 光は弁当を持参していないので、購買へ向かう。財布を身に着けたことを確認して購買へ向かうため教室を出ようとしたとき、誰かに腕をつかまれた。


「おい、ダメピカ。俺の分の飯を買ってきてくれよ。もちろんお前のおごりでなあ」


 腕をつかんだのは小学校から同じ学校に通う男、鹿山かやま孝雄たかおだった。俗にいう不良で、光は昔から鹿山にいじめられていたため、もう関わりたくない。高校に入学してからも気にくわない相手には暴言、暴力は当たり前で、普段は避けていたのに今回は目をつけられてからまれてしまった。

 鹿山はつかんだ手にどんどん力を入れる。光はつかまれた腕に鈍い痛みを感じて顔をしかめる。


「いや、おごるなんて……」


「おいおい、俺に逆らうのかダメピカ。たまには人の役に立てよ、あん?」


「でも……」


「いいから従えっていってんだよ。また殴られたいのか?」


 過去に殴られた記憶がよみがえる。高校入学直後、鹿山に逆らったことから教室で腹部や顔を殴られた。教室の片隅で殴られていることに気づいているのにクラスメイトの誰一人として助けてくれなかった。血が出たり痣ができボコボコになった姿を見た先生でさえ、光に声をかけることはなかった。みんな鹿山に目を付けられたくないのだろう。鹿山を恐れて、光に声をかけるものはいなくなった。その件をきっかけにクラスメイトや教師と距離を置いて過ごすようになった。


 恐怖で足を動かせない。そのままどんどんきつく腕を握られる。


「そこの鷲掴みヤロウ、歯を食いしばれよ」


「は?……っ!」


 光の後ろから現れた男に鹿山は頬を殴られた。鹿山は光の手を離しイスから落ちる。

 光は鹿山の手から逃れることができたが今度は鹿山を殴った男に代わりに腕をつかまれた。


「ほら、いくぞ。走れ」


 腕をそのまま引っ張られながら走った。鹿山に捕まれたところはまだ痛い。しかし、殴った男は強く握ることもなくただ、そのまま走る。すると購買にたどり着いた。


「ちょっとここで待ってろ」


 男は購買に集まる人たちをかき分けて進み、数分で戻ってきた。


「ほれ、お前の分も買ってきたから上で食うぞ」


 そう言ってパンを6個抱えてきた男がさっさと行ってしまうので、わけもわからないままとりあえずついていくことにした。

 ついていった先は家庭科室などがある特別棟の屋上だ。

 本来なら鍵がかかっているところのはずだが、どうやら鍵がかかっていないらしくあたりまえのように屋上へ出た。

 屋上にはいくつものプランターがあり、わずかながらいくつか花が咲いていた。古びた机とイスもあり、寒いけど座って食べることができそうだ。


「お前に聞きたい事があるんだわ。悪かったな連れまわして。とりあえず座ってくれ」


 促されるまま座ると、机をはさんで反対側に男は座った。襟足が少し長い金髪で見た目が怖い。そんな男がつぶさないように購買で買ってきたパンをきれいに並べる。


「どれでも食ってくれ。連れまわした詫びだ」


「連れまわしたなんて……助けてもらったし、ありがとう。えっと……」


「同じクラスの新島にいじま新島竜之介にいじまりゅうのすけだ。1月にもなってるのに覚えてないのかよ」


「ごめん……」


「まあ、俺も最初の方は学校来てなかったしな。休むことも多いし仕方ないわな。とりあえず食え」


「ありがとう、いただきます」


 新島からやきそばパンを渡されて食べる。新島もジャムパンを食べ始めた。


「んで、話なんだけどよ。お前、見えるだろ?」


「……見えるって?」


 一瞬動揺したが、光は落ち着いて返す。


「何って王様だよ。俺んとこにもいっから。ほれ」


 そう言って新島はブレザーのポケットからアルベールぐらいの人をつまみ出した。

 新島と同じ金髪でアルベールより筋肉質な小さな人は、外気に触れて寒さを感じたのか丸まった。


「やっぱ見えてんじゃねえか。合っててよかったわ」


「なんでわかったの?」


「朝来たときにここから見えた。前からなんか白いのがまとわりついてたの見えてたし。今日ここから見て見えてるって確信した」


 自転車を置くまではアルベールとは一緒にいた。

 この屋上から駐輪場まで見えないこともないが、顔を認識するまでとはそうとう視力がいいのだろう。


「お前……じゃなくてダメピカ?のとこのやつはどうだ?」


「ダメピカじゃない、早瀬光だ」


「わりい、光。俺は頭はよくねえ。こいつも頭がよくねえ。そんなやつが説明したってわかりっこねえ。説明してくんねえか?頼む!」


 パンを加えて両手を合わせ、拝むような姿勢をとった。つままれている王は丸まったまま動いてない。必死に頼みこむ新島を放置できるような心をもっているわけもなく、どう説明しようか悩んでいた。そこへ、どこからともなくアルベールがフワフワと飛んできた。


「光君にお友達ができたのですね!喜ばしい限りです。どうですか教えてあげて、協力してもらうのもアリですから」


 アルベールはニコニコしながら光を見る。アルベールを初めてみた新島はつままれながら寝ている王と見比べていた。


「えっらい丁寧な奴だな……こいつとは大違いだ」


「初めまして、光君のお友達の方。僕はアルベールと申します。以後お見知りおきを」


「おう、俺は新島竜之介だ。んでこいつが……」


 新島はつまんでいた手を離して、机に落とした。落とされた側は少し痛そうだが、すぐに起き上がり新島の腕を蹴った。


「何してんだお前は!痛いぞ!このっ!」


 そのやり取りをアルベールと光は生温かい目で見ていた。その視線に気づいたらしく、蹴るのをやめて振り向くと顔が真っ赤だった。

 

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