第2話 スマホと世界
アルベールは光の袖をつかみ、立ち上がるように促した。
帰ってからずっとドアにもたれかかってた光は引っ張られるまま立ち上がり、教科書やノートが並ぶ机へ向かい、イスに座らせられた。アルベールは机の上に立っている。
「どうやって助けてほしいか説明するね。まず、スマホを出してもらえるかな?」
「スマホ?別にいいけど……」
ブレザーの制服のポケットからシルバーのスマホを取り出す。いつもの癖でそのまま画面をつけ指紋認証でロックを解除すると、表示された時刻は18時を過ぎていた。
「ん?なんだこのアプリ……」
親との連絡ぐらいでしか使ってないので、ホーム画面はかなりスッキリしている。しかしそこに見慣れないアプリが入っていた。
「これが、僕たちの世界。助けてほしい世界」
アルベールはそのアプリに触れてアプリを立ち上げた。
すぐに起動したアプリ。画面には綺麗な空が映り、文字が表示される。
『シェルト王国 国王アルベール
契約者 早瀬光』
「国王だったの?それに名前なんて入れてないけど……」
『20XX年 4月1日から1年間 国を守り、国を繁栄させよ』
画面は金で縁取られた赤いイス――玉座へと変わった。
「短い説明しか出なくてすみません」
「ごめん、俺頭よくないからいまいちわからないんだけど」
「少し詳しく説明いたします。僕はシェルト王国っていう国の王をしております。王である僕には住みやすい国を維持する必要がある……だけど、他の国から侵略のため争いが起きたりすることがあります。国を守りたい!それを手伝ってほしいのです!」
力強く話すアルベールは話を続ける。
「画面にあった通り4月より、他国との戦争が始まると思います。戦争といっても、戦うのは国民だけではありません。契約者つまり光、あなたも戦うのです」
「俺、戦うなんて……運動も何もできないよ?それにこれって画面の中のゲームの話じゃ?」
いきなり戦ってくださいなんて無理がある。光は運動ができないため、負けること間違いないそう感じた。
「僕はこの画面の中の国の住人。確かこちらの世界でいうと異世界にあたります。僕の国以外にも国はあって、同じように王がこちらの世界に来ています。王と契約をした者との闘いの結果が国に影響を及ぼします」
「俺じゃ力になれないよ……今まで勝ったことなんてない。負けしかないんだ」
「大丈夫。君は強い。僕と君の2人で戦うんだ。君の優しさが僕らを強くする。僕が君を支えるよ。だからどうか、僕の国を助けてください」
アルベールは再び頭を下げた。
軽々しく助けると言った光は不安を感じたが、今更断るにもいかず引き受けるしか選択肢はなかった。
「頭をあげて。俺に出来ることならやるから」
「ありがとう、本当に。協力のお礼として、全てが終わって国が守られているのなら、君の願いが何でも1つ叶うよ。そういう契約なんだ。だから何か考えておいて」
「願い、ね……」
ほしいものは確かにある。期待や信頼、友達。目に見えないものばかりほしいと思う。しかしどれも今手に入った。
そう、アルベールからの期待、信頼そして友達。ほしかったものが手に入った気がした。
丁寧な言葉遣いに礼儀正しいアルベール。恵まれて育ったのだろう。アルベールから優しさが伝わる。
「君の国ならきっといい国なんだろうね」
「はい!皆が笑顔であふれている国です!」
「俺に出来る気はしないけど、やれることはやるから」
アルベールは両手を挙げた。
「握手です!」
光は小さな手と握手するために右手を出した。
その手の人差し指をアルベールは両手で握り、ほほ笑んだ。
「光、健、2人ともご飯よー、降りてきてー」
下の階から母が呼ぶ声がする。夕食のようだ。
「あ、ご飯だ。アルベールは何か食べる?」
「いえ、僕はおなかいっぱいですのでゆっくり食べてきてください」
「そう、ありがとう」
アルベールは右手を振って光を見送った。
リビングへ向かうとテーブルにはカレーが盛られていた。
父も帰宅していたようで新聞を見ながらすでにお酒を飲み始めていた。
「さっさと食べてしまいなさいね」
光は父の向かい側へ座り、手を合わせる。
「いただきます」
食べ始めてすぐに弟の健がやってきた。
「あ、なんだいるのかよ」
部屋に入るなり一瞬立ち止まり放つ言葉。まるで光をのけ者にするようで、胸が締め付けられるようだ。
これ以上傷つかないためにもカレーを食べる手を早める。
「健、勉強はどう?」
母は父の隣に座り、健に声をかける。
「まあ落ちることはないよ。大丈夫」
健は食べる手を止めずに答える。
なんでもできる弟だ。心配になることもないだろう。おそらく念のため確認しているのだと思われる。
「おい、光。お前は健を見習え。弟よりできないなんてみっともない」
「うん、わかってるよ父さん」
厳格な父の言うことは当たり前のことだ。しかしそれができない。兄より弟の方が勝っていることは間違いない。
何も言えずにただ立ち去るだけしかできなかった。
食事を終えて部屋に戻ると、アルベールが机の上でうずくまっていた。
急いでアルベールに近寄る。
「おい、大丈夫か?どうした?」
アルベールはうずくまったままうめいていた。
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