コンセントにも都合というものがある
銭屋龍一
第1話
「真治、聞いてんのかよ」
「ん? ああ、悪い。なんやったっけ」
「まったく。こんなこと、何回も言えへんちゅうねん」
「だったらよかったんじゃね。問題は解決したんやろし」
「何も解決なんかしてません」
「ふへっ。高校生にもなって、男のスネ坊って嫌われるで。なんやねんな、そのふてくされた顔は」
「誰がスネてるって」
「ん? 春樹じゃね」
「まったく。スネてへんわ。だからさぁ、ケイタイが充電でけへんかったんや。かすみのやつが学校の電気を無断で使うな、ってコンセントから充電器勝手に抜きよったんや」
「ん? 春樹。今、かすみの悪口言わへんかった。俺、かすみの悪口言うやつは全部ぶっ壊すことにしてんねんやけど」
「たとえば何?」
「ん? 春樹のiPadとか。そんな感じ」
「あれ壊したの真治だったのかよ」
「覚えてへんなぁ」
「都合が悪いことは忘れる口か」
「ああ、そや。そのコンセントにも都合があったんやない。充電器ぶら下げれへんような」
「どんな都合だよ」
「コンビニに行って弁当買うとかさ」
「コンセントがコンビニ行って、弁当温めてもらってりゃ世話ないな」
「よかったやん。一見落着やんか」
「何も解決してないやろ」
「解決さしたりぃや。いいやん、コンセントが弁当温めてもらったかて」
「嫌じゃ。ありえへんやろ、そんなこと」
『しあわせのカタチ』と題したブログ記事をながめながら「このおっさん、すげぇ屈折してんなぁ」と和瀬道夫はあきれて首を左右に振りながらつぶやいた。
和瀬道夫とは私のことだ。戸籍上は、鈴木一郎太という別の名前があるけれど、より私らしい私は和瀬道夫の方だ。メールアドレスもネット上の様々なサービスのアカウントもIDも、すべて和瀬道夫で統一している。今眺めているブログも私のものだが、そのブログのプロフィールも和瀬道夫である。和瀬道夫を名乗り出して、もう二十二年になる。
お前の余命を四十五日とする。人生最後の四十五日でおまえは何をする?
命尽きるまで小説を書いて過ごします。
それがおまえに許されようか?
たとえこれで最後であろうとも、やはり許されざることでしょう。それでも、その真贋を確かめて逝くしかないのです。
もう一度、ブログの文章に目を通し、自分で書いたものであるにもかかわらず、苦笑する。これのいったいどこが『しあわせのカタチ』なのだろうか。しかも大げさに過ぎる。だが、私にとってこのしあわせは、たぶん最高に価値あるものだ。
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