第36話 人形

 その少女は人形かと思うほど喋らず、なんの反応も示さなかった。


 一度その少女がモンスターに襲われそうになった時も、怖がりもしなかったし、逃げもしなかった。


 ミーナが話しかけると、「うん」と言った返事はするので喋れないわけではないようだ。


 歩けるし手も動かせる。一体クソ魔法陣は彼女の何を奪っているんだ?と思うが、芳香剤の話では子供の記憶を奪うケースもあったらしいので、そのような直接的には目に見えないものを奪われているのかもしれない。


 年齢はミーナと同じくらいだろう。ミーナも自分の年齢を正確に覚えているわけではないので、とりあえず11歳ということにしてある。さすがにミーナが30歳ということはないと思うので、妥当なラインだろう。ちなみに僕は3歳だ。


 その少女に名前を聞いても、首を横に振るだけなので、ミーナは「リコ」と名付けていた。ミーナがリコと呼んでも喜んでいるかどうかは分からなかった。ただ虚ろな目で頷くだけであった。


 1秒でも早くリコのお腹に刻まれたクソ魔法陣を無力化し、リコに笑って欲しいと僕は思う。


 幸せな生活を送って欲しい。まだ小さな子供なんだから、商人でも冒険者でもなんだってなれるだろう。


 リコは今、ミーナの替えの服に身を包んでいる。ミーナはいつもリコの手を引いて歩いているし、こうしてみると姉妹のようだ。


 いや、本当に姉妹になればいいのだ。血の繋がりなんて関係ない。もうこの二人は姉妹だと僕が決めた。


 今すぐ芳香剤の家に向かいたいところだが、もう1、2個近くの街を探索する。


 リコよ、すまない。もう少しの辛抱だ。


 街を探して3日ほどカサカサと歩き回ると、ミルミルより遥か北で次の街を発見する。


 この3日間はリコと一緒に行動していたので、クソ鳥が常にゲヒョーゲヒョーと鳴き続けて大変だった。森の中でモンスターが「なんか呼んだか?」と集まってくるのだ。


 お呼びでないと全て返り討ちにして、食料にした。


 僕たちは街に入って宿をとる。安全面を考え、一番高そうな宿を選んだ。もう外も暗いので部屋が空いているか心配だったが、問題なかったようだ。


 受付のお姉さんに大部屋をオススメされるが、「ベッドが1つの小部屋でいい」と伝えるとゴミを見る目でさげすまれた。僕は眠らないのでベッドを使わないだけなのだが、確実に何か勘違いしているだろう。一応粘土板に「僕は冒険者だから立って眠る」と書いて見せたが、納得してくれたようには見えなかった。


 お金を払って鍵をもらうと、受付のお姉さんに「そのにおいと鳥……?の鳴き声をなんとかしてくださいね。」と念を押される。


 申し訳ない。ウザ鳥は布団にでも包んでおく。臭いは諦めてくれ。


 ついでにこの街の名前を聞いてみると、


「ラスコーの街、って呼ぶ人が多いかしら。街の北に住んでる領主の名前がラスコーなのよ。」


と言っていた。


 他にも、近隣の街の情報や、地図を買える店など色々聞いた。どれも優しく答えてくれたので僕は嬉しくなって、チップとして追加でお金をあげる。マミーからもらったお金だし別に問題はない。


 部屋に行くと、ふかふかのベッドでミーナとリコは抱き合って眠る。


 正確に言うと、ミーナがリコを抱き枕にするかのようにくっついて眠っている。微笑ましい。


 二人が眠りについたことを確認して、僕はウザ鳥を持って夜の街に繰り出した。

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