第8話 カントリーロード

 先日、「耳をすませば」をDVDで観ました。思いのほかよかったです。いや、もちろん自分の中学時代にはそんな青春はなかったですが。

カントリーロードの歌を聴くと、僕は故郷に帰らないというような内容ですが、私も故郷に帰らない、帰れないのです。私の故郷はイギリスです。はい、わたしは日本人なのですが、心の中で一度イギリスで一生暮らそうと決めてしまってから、今実家にいても全然故郷にいる感じがしないのです。思えば私が発病したとき、実家に帰りたくて仕方なかった。実家に帰れば大好きなビールもたらふく飲めるだろうし、生活の世話はすべて母がやってくれる。人生の中で最も大事な「安心感」をきっと得られえるはずだとおもっていました。

実際にしばらくの間、実家に帰りました。


しかし、そこはもう私の故郷ではありませんでした。


仕事もバンドもやめて何もない自分に飲ませる酒はない、と天が言っているかのように、医者からは禁酒の命令。家の雰囲気も重苦しいもので、私はただ自室横になりながら戸川純のプロモーションビデオを眺めているのでした。



発病する前のわたしといえば、それはそれは明るい人間でした。なにより酒がすきでした。酒を飲ませれば面白いことをやる人間ということで大学、仕事、音楽仲間などもたくさんおり、実家に帰れば笑顔と会話が絶えない、本当に幸せな家庭であったと思います。


しかし、くずれてしまった。

私はもうあの頃のように笑えない。

常に顔の片側がひきつっていてしかめつらをしている。笑顔を作ろうとしても、かなりぎこちない。人と話そうとしても、話題がまったく続かない。

どうしたんだ俺は。苦悩に次ぐ苦悩。しかし家の中に引きこもっていたくはない。自転車でサイクリングするも、外界の空気は私を拒絶するかのように冷たい。いや、私が弱すぎるのだ。私の精神は赤子のようになってしまった。さらには、成長しては死に、成長しては死ぬ。変わることはない。陰では「あれで3〇歳?」と笑われているのだろうか。親戚の間でも腫物扱いになっているのだろうか。そんなことを親や主治医に話したところで、「それはあなたの思い込みです」「統合失調症の症状です」「追加のお薬だしましょうか」という話になるだけだ。

カントリーロード…

僕はもう戻れない

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