7 越えた先には

 仕事もサクサクとこなしていき、ついに土曜日の休みだ。天気はありがたく、透き通る空。


 二人で天国岩に登る日が来た。


 ずっと気になっていたんだ。あの大きな岩を。

 小さいころから聞いたことはあった。天国から一番近い場所ということも。


 だけどもうそれは過去のことで、今は人影もなさそうだ。子供のころはここまで来たことはなくて、近くの公園でずっと遊んでいた。


 あの頃も十分楽しかったさ。今もあいつは元気にしてるのかな……。


 会社までは車で行っているんだけど毎回その公園を通るんだ。

 あの公園は時代が止まったままだ。それは今の天国岩のように。

 周りの世界は変わっているんだけどね。これまた見事に。


 その日は車で彼女を迎えに行って、途中から天国岩まで歩くということになった。


 町を抜けて山の入口のような細道に入る。この先の小さな町に家がある。



なんとか到着。黒いコートを羽織った彼女がぽつり立っていた。


「わざわざありがとうね」


 彼女がそうお礼を言うとちょこんと隣に座った。とっても小柄で座席シートがとても大きく見える。


「よし、じゃあ行こうか」


「うん!」


 さっき来た道から戻って、あの大きな天国岩を目指す。


 小さな山道を越えて少しは大きい道路へ出た。周りにはぽつりぽつりとビルがある。


 まるで時代の変化を流れ見るように、僕らはそこを通り過ぎた。

 ちょっぴり悲しかったな。あの頃の景色はもう目には見えないんだって思えて。




 彼女を乗せてから30分ほどでやっと、あの噴水広場の近くにまで来た。


 適当に空いている駐車場を探して車を止めた。やっぱり誰かがいると緊張してしまうな。ちょっとかっこいい所見せようとか……変な所に意識が行くからね。


「ありがとうね!」


「ほいほーい」


 彼女はとても張り切った様子で、今にでも走って天国岩まで向かいそうだった。

 今まで気になっていたのかな。僕もすこし照れたように返事をしたのを覚えている。


 てくてくと歩き始める。


 あの線路を通った。錆びたレールがぎらっと反射する。線路は見えなくなるところまでずうっと続いていた。


 そし渡った先の噴水と平原。


 今回はそこが目標じゃないからね。ずっと奥へ進んでいく。一人が通れるか通れないかの小道。


「見えてきたよ」


 彼女のワクワクは止まることなしに、僕に嬉しそうに話しかけた。


 ざくざくざく……とつとつとつ……。


 あたりに人の姿は見えなくなり、どこを見ても僕と彼女だけの世界になった。


 やっとだ。初めてみる。ここまで大きいのか「天国岩」ってのは。


 フラットな緑のじゅうたんにドンとそびえ立つ。


「早速行ってみようよ!」


 彼女はこつこつと緑の鉄階段を登る。僕もぜふぜふとそれに追いつくよう登った。


「結構高いな……」


 彼女はそれでもスタスタと登った。ちょっと違った一面が見えた。


 ――――――――――――


「うわぁ……綺麗」


「すげぇ……」


 新しく建付けられただろう柵に手を置いて、じっとあたりを見回した。


 遠くにも海が見えた。行き交う船の奥には小さな家がぽつりぽつり。未知の世界だった。



 そしてこの景色に心動かされた僕は、そのあとプロポーズをここですることになったんだ。



 そこから2ヶ月後の話だけどね。

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