第9話 あおいはなびら

「 あおいはなびら 」


彼方まで飛んだ一粒の種は 肥やしの匂いの

残る草原にひと知れず落ちました


くるくると回る空を幾度も感じては 根に冷

たい水を吸い からだの奥からひろげた一枚

一枚の葉に 雨粒を受け止める日々は長かっ

たのです


願いが叶うということ 空から降りる乾いた

空気を受け止めることができたとき すでに

葉の一部は 茶色に変色し始めていましたが

はなびらはあおく透き通り 呼吸を始めたの

です


それは生きものが厚手のコートを着る前の

一瞬の輝きだったのかも知れず 花は懸命に

空を向き ひかりを集めました


すると一日は手のひらを返すように峰から雪

を降らせたと思うと 草原は一夜にして純白

の原に変わり それはどこまでもどこまでも

眩しく 花はどこにも見えなくなりました


氷になったはなびら 雪ははなびらの色を吸

い うすく化粧をしたということです


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