2.覚悟を決めるとき
俺の説明を聞き終えたダルネスは、「ふぅ」と大きく息を吐いて頷いた。
「なるほどのう……」
シルシルと相談した翌日。俺はダルネスとレルスに真実を話すことにしたのだ。
俺が異世界の人間であること。
神によってこの地に送られ、いずれ勇者となる双子を育成するよう命じられたこと。
俺がちょくちょく教会に行っているのは神から助言を受けるためだということ。
双子の育成が終わったとき、俺はこの地を去り元の世界に戻ること。
概ねそんな内容だ。
もちろん、もっと細かいことも話したが。
なお、俺の元いた世界――地球がどのような場所なのかとか、向こうの世界で俺が死にかかっているとかは言わなかった。
話す意味がないと考えたからだ。もっとも前者に関しては言葉だけでは伝えきれないだろう。後者に関してはもしかすると2人は察しているかもしれない。
あと、神様が幼女とかそういうことも言っていない。一気に話が胡散臭くなるだけだ。
「このことを知っている者は他におるのか?」
「ミリスさん――元戦士でアレルに剣術を教えてくれたギルド職員には、あの2人が未来の勇者だとだけ。彼女は他人に話してはいないと思います」
「双子自身も、まだ何も知らないのじゃな?」
「はい」
頷いた俺に、ダルネスはさらに尋ねる。
「これまで、なぜ、誰にも……本人達にも話さなかった?」
「信じてもらえるとは思えなかったからです。それに……俺は双子にできるだけ普通の子どもとして育ってほしかった。
いや、冒険者にした時点で普通の子どもではなくなったのかもしれませんが、『自分たちは勇者様なんだ』なんて意識を持って育ってほしくはなかったんです」
俺の言葉に、ダルネスは頷いてくれた。
「確かにな。2人の力が覚醒する前……レベル1への試験の時であれば、ワシらも簡単には信用できんかっただろう。
それに、自分は特殊な人間だなどと言われ育った子どもはろくなもんにならんじゃろうというのも、一般論として正しい判断じゃろう。
あるいは、それを理解できるショートくんだからこそ、神も双子を託したのかもしれんのう」
あの幼女神様にそこまでの考えがあるかは疑わしいが、ここは頷いておく。
「じゃが、それはもう限界じゃと思うよ」
ダルネスは、シルシルと同じようにそう言った。
「アレルはすでにこの世界最強の戦士となった」
「レルスさんには負けましたけど」
俺の言葉に、レルスは言う。
「最後に勝敗を決めたのは武器の差にすぎない。それに……」
レルスはそこで言葉を句切る。
「……次はもう、私も勝てないだろう」
そうか、もう、アレルはそこまで。
「ショートくん。君が双子にすら勇者のことを秘密にした判断が間違っていたとは思わん。だが、これ以上隠していても、むしろ2人にとってもよい結果にはならんと思うよ。
このままならば、自身の力の根底がなんなのか理解できず、自らの道を見いだすこともできまい」
そうだろうな。
アレルは……そして、フロルも自分たちが普通じゃないということくらい、いいかげん気づいているだろう。フロルはもちろん、アレルもそこまでバカじゃない。
ならば、もう限界だ。
ダルネスは続ける。
「それに、周りの者にとってもアレルの力は脅威になりうる。この町の人間はアレルのことを信頼している様子だったが、それでも異能の力を持った子どもというのは、周囲から時に疎まれ差別すらされる」
それはそうだ。
実際、先日のレルスとの決闘を見て、アレルを恐れるようになった人だっているだろう。
いや、正直に言えば、俺だって一瞬恐くなったくらいだ。
レルスがつけたす。
「それに、君は双子以外の仲間の気持ちも理解した方がいい」
「え?」
「先日、ライトルールが私の所に来た。自分ではアレルの横に並べない。自分の代わりに私にアレルとパーティーを組んでくれと。私は断ったがな」
ライト。
あいつ、そんなことを。
「戦士から見れば、アレルは眩しすぎる。ライトのような年齢の戦士ならばなおさらそう感じるだろう。彼のためにも、これ以上隠し通すのは避けるべきだと私は思う」
そうだろうな。
その通りだろう。
「分かりました。仰るとおりだと思います」
頷いた俺に、ダルネスは言う。
「むろん、誰彼構わず真実を話せとは言わんよ。むしろ話してもらってはこまる。勇者の復活は魔王の復活と対になる。勇者だけでなく魔王も復活したとなれば、パニックになりかねんからな」
魔王。
そうだ。
これまであえて考えないようにしていたが、勇者は魔王と対になる存在。
アレルとフロルは、いずれ魔王と戦う運命にある。
「ダルネスさん、1つ教えてください」
「なんじゃな?」
「魔王とはなんなんですか?」
「そなたは神から聞いていないのか?」
「勇者と魔王は対の存在で、300年に一度生まれて戦うとだけ」
厳密には300年という年月はミリスに聞いたり、この町の図書館で調べたものだが。
「なるほどのう」
ダルネスは黙想する。
「ならば、それもショートくんだけに話すのではなく、双子たちに聞かせるべきじゃろうな」
「はい。では、双子を呼んできます。ライトとソフィネにも話していいでしょうか?」
ライトとソフィネはこれまで共に旅してきた仲間だ。2人にも聞く権利があるだろう。特にライトには。
「ショートくんがそう判断したならば」
「わかりました。一度宿に戻って、4人を連れてきます」
俺はそう言って、席を立った。
いよいよ、覚悟を決めるときが来たのだ。
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