10.決闘!アレルVSレルス

 アレルとレルスがぶつかる。

 いや、実際には双方の剣と剣がぶつかったのだが。

 超絶なスピードでの打ち合い。


 そして――


 すまん。その後はどうなったかよく分からん。

 いやね。本当に。


 互いに剣をぶつけ合ったかと思ったら、次の瞬間には10メートルも離れて『光の太刀』を放ち合う。かと思ったら、さらに次の瞬間にはアレルが3人に『分身』して、次の瞬間にはレルスが4人に『分身』していた。

 そうかと思えば、燃え上がった剣がぶつかり合い、次の瞬間には地面が大爆発。


 いや、地面が爆発ってなんだよ!?

 つーか、観客の何割か、吹っ飛んだよ!?


 このあたりで、ダルネスが「こりゃぁ、まずいのう」とか騒いで、思念モニタを弄り、2人――いや、審判のライトを含む3人を囲うように魔法の結界だかバリアだかをはった。


 なおも続く、アレルとレルスの戦い。


 爆発、閃光、炎上……

 これのどこが剣術の決闘だ!?


 ソフィネが呆れたような口調で誰にとも無く言う。


「戦士同士の戦いで、なんで爆発するのよ……」

「しるかっ!」


 ミリスも吐き捨てる。


「おそらく、『火炎の太刀』や『爆破の太刀』、『暴風の太刀』などじゃろうな」


 ダルネスが推察する。


「なんですか、それ!? っていか、アレルのステータスにそんなんなかったですよ!?」

「レルスが目の前で使ったのを見て、覚えたんじゃろう」

「そんな、非常識な!?」

「ワシもそう思うぞ」


 気がつくと、2匹の炎の龍がダルネスの結界の中で荒れ狂う。


「今度はなんですか!? 『龍の太刀』とか!?」


 俺がダルネスに尋ねる。


「ワシが知るか! というか、まずいのう。こりゃあ、ワシの結界ももたんぞ」

「え?」


 ダルネスは立ち上がり、巨大な声で――おそらく、これも魔法だ――叫んだ。


「皆の者っ! 逃げるのじゃ」


 ギルド長の声に、観客達は一瞬戸惑い――


 ――そして、我先にと逃げ出すのだった。

 俺達? 決まっているだろ。一目散に逃げたさ。


「つーか、ライトは大丈夫なのか!?」


 審判として結界の中にいるアイツが一番ヤバいんじゃ……


「一応、さっき、ライトに『金剛』をかけましたけど」


 逃げ走りながら、フロルが言う。


「そういう次元の攻撃力じゃねーだろ、あれはっ!」


『金剛』で防げるダメージには限りがあるのだ。


 結界の中では炎の龍と、光と、爆煙が荒れ狂っている。

 ――いや、この瞬間。


 ダルネスの結界が吹き飛び、100メートルは離れたところにまで逃げていた、俺達もまた吹き飛んだのだった。


 ---------------


 砂と泥まみれになりながら、俺は立ち上がる。


「痛っつうぅ」


 周囲を見るとフロル達は全員無事。まあ、ステータス低すぎの俺が無事だったんだ。他の皆も大丈夫だろう。

 今は炎の龍も爆煙も光も見えない。

 むしろ、不気味なほど静かだ。


「で、どうなったんだ?」


 ここからでは、遠すぎてよく分からん。


「ふむ、見てみるかのう」


 ダルネスが言って、思念モニタを弄ると、目の前に2人の戦いが映し出される。

 こんな、テレビみたいな魔法もあるのか。


 2人は、未だ戦っていた。

 互いに剣と剣をぶつけ合わせている。


 その横には、2人の動きを見守り続けるライト。

 よかった、アイツ生きてたわ。


「……というか、よく剣が壊れませんね」


 ミリスに尋ねる。レルスの剣はどうかしらないが、ミリスからアレルが譲り受けたのはただの鋼鉄の剣のはずだが。


「超一流の剣士は、自らの気合いを剣にもこめる。ゆえに剣の強度もおそろしいほど強くなる」


 なるほど。

 最初にミリスが言っていた『武器など関係ない』とはこのことか。


「すごいんですね。剣士って」


 感心する俺。


「私レベルの剣士ではそんな超常現象は起こせんがな」


 自嘲的にいうミリス。


 アレルとレルスは幾度となく、剣をぶつけ合い、斬り合っている。

 お互いの体には幾筋もの傷があり、しかしどれも致命傷ではないらしい。


「……アレル」


 フロルが呟く。


「なんで、さっきから爆発とか光とかなくなったんでしょう」


 ミレヌさんが疑問の声を上げる。

 ダルネスがその疑問に答える。


「戦士のスキルはMPもHPも消費しない。だが、あの2人は派手な攻撃をひかえて、いま純粋に剣と剣で決着をつけようとしておる。おそらくじゃがな。

 そして、だとすれば勝敗は……」


 ダルネスがそう言った時だった。

 2人の動きが止まった。


「互いに、次で終わらせるつもりじゃな」


 2人が油断なく剣を構える。


 静寂。

 ひたすら静寂。

 2人も。

 ライトも。

 俺達も。

 他の観客達も。


 そんな、おそらく数秒の、しかし体感的には何時間もの時が流れ。


「アレルっ!」


 フロルの透き通った声が草原に響き渡る。


 次の瞬間。

 2人はかけ出し、剣と剣がもう一度だけぶつかり合う。


 そして。

 決着の時は来た。


 ---------------


 アレルとレルスは未だ互いににらみ合っている。


 レルスの剣は折れていた。

 

 ――一方、アレルの剣は。


 刀身が粉々に砕け、つかのみがアレルの手の中に残った。


 そして。

 アレルが何事か口を開いた。


 次の瞬間。


 ライトの声が草原に響き渡る。


「勝者! レルス=フライマント!!」


 沈黙。

 そして、大歓声。


 アレルとレルスはへたり込むように座る。


 俺達は2人の方に走る。

 フロルがアレルに『怪我回復』と『体力回復』をかける。

 レルスにはダルネスが回復魔法をかけたようだ。

 ライトもずいぶん傷ついている様子なので、俺が回復させる。


 アレルは俺達を見ると。


「えへへ、負けちゃった」


 と、なんだかとても満足げに笑った。


「武具の質など問わぬレベルの2人。だが、最後に勝負を決めたのは武器の質じゃったか。戦士とは面白いのう」


 ダルネスはそう言って「ふぉふぉふぉ」と笑う。


「ミリス先生、ごめんなさい。剣、ダメになっちゃった」


 アレルはそういってミリスに謝った。


「私の剣がここまでの戦いに使われたことを心から誇りに思う。いい戦いだったぞ、アレル」


 ミリスのその言葉を聞くと、アレルは「えへへ」と笑って、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。


「アレル!?」


 フロルが叫ぶが――


「眠ってしまったようじゃのう」


 ダルネスがそう言った。


「まあ、今は寝かせておやり」


 アレルの寝顔は、6歳の小さなかわいい男の子のそれだった。

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