【番外編】

【番外編4】 奴隷商人と双子の奴隷

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(ゴボダラ/一人称)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は自分のことを悪党だと思っている。

 そりゃあそうだろ? 金で人間を買って、人間を金で売る。

 奴隷商人なんてみんな悪党さ。


 奴隷っていうのは、元犯罪者か、犯罪者の子どもか、あるいは孤児か、莫大な借金を返せなくなったヤツか……まあ、いずれにせよそのままだったら野垂れ死ぬような連中だ。

 奴隷商人の中には、『だから俺達は人助けをしているんだ』なんてうそぶく奴もいる。

 俺も、たまにはそういう言い回しをする。たとえばミリスの姉ちゃんみたいな堅物相手にはな。


 だけど、本当のところ、俺は卑下されるべき悪党さ。

 それでも、極悪人よりもマシだと思うのは、最低限法律は守っていることと、なによりも自分を悪党だと自覚していることだろうな。

 一番恐い極悪人っていうのは、自分を悪だと自覚せずに犯罪も人殺しも躊躇しない連中だ。そんなヤツらに比べれば、まあ、俺は小悪党ってとこだ。


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 アレルとフロルの両親は俺の目から見ても極悪人だった。ただの盗賊じゃねぇ。押し入った家のヤツを殺して盗む、最悪のヤツらだ。

 双子には悪いが、あの2人には地獄すら生ぬるいね。俺が死んだ後は、まあ地獄で許して欲しい。


 お国はヤツらを捕えた。当然極刑だ。

 問題は、ヤツらに双子の赤ん坊がいたこと。

 極悪人にも愛ってやつはあったのかね。


 いくら極悪人の子どもといえど、言葉もしゃべれない赤ん坊は国も殺せねぇ。

 で、どうなるかっていうと、奴隷として売りに出される。

 だが、赤ん坊なんて買おうとする奴隷商人はあまりいない。

 子どもならともかく、赤ん坊なんて買ってもしかたないからな。


 跡継ぎを探している貴族様や大商人様が赤ん坊を買うなんていうこともまれにあるらしいが、まあ、まれにあることっていうのは、普通はないんだ。しかも、そういう貴族様も、さすがに極悪人の子どもは買わない。

 このままだと、双子は奴隷にすらなれず、国にも捨て置かれる。そういう直前で、俺が購入することにした。

 購入金額は2人で銅貨5枚。人間の赤ん坊なんてお安いだろ?


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 とはいえ、赤ん坊を買ってももうけなんてねえ。

 何しろ、売る相手がいない。

 というか、双子を育てるために母乳が出る女なんていう、究極に金のかかる奴隷を探すハメになった。しかも、緊急で必要だったから、こっちは大判金貨10枚もかかったぜ。


 双子はすくすく大きくなった。

 特にフロルはやたら頭がよくて、これならそれなりにいいところに売れるかなっておもえるようになった。アレルの方は……まあ、最悪俺の小間使いにするか。


 フロルの頭の良さをみていて、俺は彼女にいろんなことを教えた。掃除洗濯等の家事とかな。すこしでもいい奴の奴隷になった方が、彼女も幸せ、俺も少しは金を取り戻せて幸せ。Win-Winだ。

 まあ、調子に乗って、奴隷なんて夜の相手をさせられるとか、幼児に言うことじゃないことも口走っちまったような気もするが。


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 そんな双子を買いたいって野郎が現れた。

 ショート・アカドリ。見るからに世間知らずなお坊ちゃんだ。


 商品を見たいなら大判金貨1枚よこせつったら、本当によこしたのには笑いをこらえるのに必死だったぜ。ただの冗談だったのによ。もちろん、くれるっていう金はもらうけどな。

 うんでもって、驚いたのはヤツが『無限収納』を俺の前で使って見せたことだ。

 レア魔法を覚えていることもそうだが、なによりも奴隷商人なんていう小悪党に自分のレア魔法をみせるバカっぷりに、俺は目を見開いちまったぜ。

 俺は小悪党だからやらないが、極悪人の奴隷商人だったら、あの場でショートを捕えて奴隷にしているだろうよ。


 そんなこんなで、双子はショートに譲った。

 バカでアホで世間知らずでお人好し。そんな男だが、双子を不幸にはしないだろう。

 そう思うと、なぜか俺は少しホッとしていた。


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 ショートと双子が冒険者になったと聞いたのは、それから数日後のことだ。

 いつも行くぼろっちい酒場で、これまたいつも出会う男――この町では数少ない魔法使いのブライアンから聞かされた。


 俺とは全く別の意味で、他人から避けられやすいブライアン。俺とヤツは結構気が合う。

 勘違いするなよ。気が合うといってもヤツみたいな趣味は持ってねぇぞ。


 ヤツ曰く、フロルとショートが自分に魔法を習いに来たという。

 しかも、2人ともどんどん魔法を覚えていくんだとさ。

 ついでに、アレルも剣術の天才だとかなんとか。


 いやー、しくじったと思ったね。

 双子がそこまで天才だっていうなら、もっとショートにふっかければよかった。

 あるいは、双子を冒険者として俺が育成してやる手だってあっただろう。俺だって昔は本気で冒険者として生きることを夢見たもんだ。

 いまでも一応レベル2の冒険者カードを維持できる程度には、ギルドの依頼をこなしている。ま、これはかつての夢への未練だけどよ。


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 驚いたことに、ショートと双子は30日ちょっとでレベル1になっちまった。

 レベル0はみならいだが、レベル1ならまごうことなき史上最年少冒険者様だ。

 その話を聞かされたとき、俺はなぜだかものすごく誇り高い気分になった。

 その天才児を5歳になるまで育てたのは俺だぞと言ってやりたかった。

 いや、もちろん、そんな恥ずかしいことはしないが。

 俺は小悪党だからな。


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 翌日、ギルドから緊急指令の連絡が入った。

 いくら小悪党の俺でも、まがいなりにもレベル2の冒険者だ。一応こういう連絡は来るのさ。

 依頼内容は魔の森に現れたセルアレニの群れの討伐。

 冗談じゃねーと思ったよ。いくらギルドの緊急指令は金払いがいいと言っても、命がけすぎる。

 幸い、レベル2は志願制だったので、無視してやろうと思った。

 だけどよ。

 小さな文字で最後にこう書かれていたのさ。


『※なお、ミリス、ショート・アカドリ、アレル、フロルの4人が先行して戦いにむかっている』


 ざけんなと思った。

 ミリスのヤツは馬鹿か。あんな素人とガキを引き連れて、遊びじゃねーんだぞ。

 子どもを死地に連れて行くなど、悪党のすることだ。その自覚がミリスにないってなら、ヤツこそ極悪人だ。

 ショートも、俺から買った奴隷をなんだと思ってやがる。


 気がついたら俺は冒険者ギルドに向かっていた。奴隷達の中にも、冒険者資格を持っているヤツがいたので連れて行くことにする。事情を話したら、冒険者資格も無い奴隷達すら、双子を助けに行きたいとかいい出しやがった。

 もちろん、資格がないヤツや、あってもレベル0のヤツがついて来ることは許さない。

 死なれたら大損だからな。俺は奴隷達のぬしだ。勝手は許さん。


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 で、まあ、その後のことは割愛するとして、なんとか、4人とも無事助けられた。

 いや、ミリスは左腕が動かなくなったようだが、俺に言わせれば自業自得だ。天罰だよ。子どもを危険に晒したバカヤロウに神様が怒ったんだろうさ。


 今、双子は俺の奴隷達がおんぶして運んでいる。

 2人の寝顔はとてもいい笑みだ。

 魔の森を冒険した後だから2人とも汚れているが、着ている服はそれなりに上等なもので、アレルにいたっては剣をもらったらしい。いや、剣は借り物だったか? まあどっちでもいい。


 なんでい、やっぱり2人ともショートに買われて幸せだったじゃねぇか。


 だからさ。

 俺は思った。


 アレル、フロル、よかったな、と。


 もちろん、そんなことは口が裂けても言わねぇ。

 なぜかって?

 

 決まっているだろ。

 俺は小悪党だからさ。

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