13.離別
魔の森の戦いの翌日。俺と双子は宿でぐっすり丸1日眠った。
なにせ、疲れていたからな。HPだけ回復しても、精神的な疲労とかね。
っていうか、双子が目覚めなくてちょっと心配だった。
一応、医者に診せたところ、眠っているだけだと言われたが。
もし、もう1日目覚めなかったらシルシルに相談するしかないかなと思っていた。
だが、戦いの翌々日、双子は元気に目覚めた。
当然のことながら、俺は双子にあの戦いの時のこと――光の戦士とか――について尋ねた。
で、双子の答え。
「うーん、アレル、わかんなぁーい、それより、おなかすいたぁー」
「すみません。ショート様。私も記憶がなくて」
……だ、そうである。
やはり、シルシルに相談すべきか。
だが、まずは冒険者ギルドだな。
あらためて皆にお礼を言って。
バーツとカイが目覚めたかも気になるし。
そんなこんなで、俺達は冒険者ギルドに向かうのだった。
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冒険者ギルドには、結構な人数の冒険者がいた。
なんでも緊急指令の場合、ギルドとしても臨時出費になるのですぐに依頼料が出せず、色々手続きが必要らしい。
今日、ようやく依頼料が払われるというので皆集まったらしい。
ちなみに、俺達やミリスには依頼料は出ない。当然だけど。そんなわけで、ミリスはこの場にいない。
そうだ、俺のMPはまだ回復していない。
魔石を買わなくちゃいけないが、金がなぁ。
……などと考えていたときだった。
入り口の方が俄に騒がしくなる。
現れたのは、バーツ、カイ、マルロ。そして3人を追ってライトも。
「なあ、考え直せって。まだまだ、お前達だって……」
ライトがなにやら必死に言っている。
「ライト、悪いけどさ」「俺達はもうな」「うん、無理だ」
うーん、なんの騒ぎだろう?
ライトの制止を振り切り、3人はミレヌの元へ向かった。
『ミレヌさん、俺達の冒険者登録を解除してください』
3人は同時に言った。
あー、なるほど、そういう話か。
俺はなんとなく納得する。
「おい、お前らっ」
ライトはさらに止めようとするが、3人の意思は固い様子だ。
「バーツ達、ぼうけんちゃやめちゃうの?」
アレルが俺に尋ねる。
「そうみたいだね」
「そっかぁー」
アレルはちょっと残念そう。3人も、アレルと一緒に剣術修行した仲間だからな。
だが、俺は止めようとは思わない。アレルもフロルも、他の冒険者達もそれは同じ様子だ。
俺も含めて、別に一昨日のことを怒っているからとかではないと思う。
冒険者は危険な仕事だ。誰かに強制されてやるもんじゃない。
俺も、一昨日の戦いでそれを思い知った。
唯一止めようとしているのはライトだけ。
彼はパーティーを組んでいたのだから、引き止める権利くらいはあるだろう。
だから、これは4人の問題だ。口を挟む必要はない。
ミレヌは「ふぅ」っとため息をつく。
「わかりました。3人の冒険者登録を解除します。同時にライトさんとのパーティー登録も」
うん。そうだよな。ミレヌも止めないよな。
「ただし」
ミレヌは言う。
「今はダメです。あなたたちは、冒険者として最後のけじめを付けていないでしょう?」
どういうことだろうと考え、すぐに俺はその意味をさとる。
3人は分かっていない様子だ。
「レベル0の冒険者になって、レベル1まで行ける人は3人に2人くらい。レベル2になってダンジョンに行ける人は半分以下。脱落者の何割かは死亡する。これは最初に言ったわね?」
『はい』
「あなたたちは今回死なないですんだ。死なずに冒険者とは別の道を歩こうとしている。これはとてもとても幸運なことよ。
だけどね。あなたたちの無謀な行動のために、迷惑をかけた人達がいる。傷ついた人がいる。その人達に対して、あなたたちはまだ冒険者としても人間としてもケジメをつけていない。だから、まだ登録解除はしない」
マルロが尋ねる。
「じゃあ、どうすれば」
そんな彼らに、冒険者の誰かが言う。
「よーするに、『ありがとう、ごめんなさい』をまだ言っていないだろってことだよ」
そう言った冒険者は笑い、そして他の冒険者達もそれにあわせて笑い出す。
3人はハッとなった顔で。
『みなさん。今回は本当にご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございました』
頭を深々と下げた。
そして、俺達3人に、さらに言う。
「アレル、それにショートさんもフロルも。本当にありがとう」
さて、なんて答えるかな。人生の先達として……うーん?
などと、俺が考えていると、アレルに先を越された。
「うん。3人ともげんきでねっ!」
アレルはそういってニカッと笑った。
あ、そうか、それでいいんだ。余計な言葉なんていらないんだ。
そして、3人の冒険者登録は解除され、彼らはギルドから出て行く。
彼らの背に、冒険者達が口々に声をかける。
「がんばれよっ!」「落ち着いたら連絡しろよ!」「ま、オレらは冒険者だからこの町にいるとは限らねーけどな」「そりゃそうだ」……
誰も一昨日のことは言わなかった。
迷惑かけやがってとも、すぐに助けに行かなくてすまなかったとも、どっちも言わない。
ただ、彼らの今後を応援する言葉を贈る。
これが冒険者の流儀か。
と、その時だった。
タイミングよく――まるで狙ったかのようにミリスがギルドの入り口に現れたのだった。
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