9.本当の戦い

 戦いは凄惨を極めた。

 決して、絶対的に不利だったわけではない。


 アレルとミリスはよく戦っていた。

 ミリスは自分の力では首を落とせないと知ると、蛇の手足を切ることに重点を置く。

 蛇の足を切り落とされても、ヤツらは苦痛すら覚えないらしいが、それでも攻撃手段を減らすことができる。


 とどめはアレルとフロルの役目だ。

 アレルが首を落とし、フロルが遠距離から『氷球弾』を喰らわす。


 こう言えば、意外と善戦しているように聞こえるかも知れない。

 だが、セルアレニ達も当たり前だが黙ってはいないのだ。


 アレルとミリスはすでに何度も炎の攻撃を食らっている。

 致命傷にはならない炎だが、それでも相当な苦痛らしい。


「フロル! お前は攻撃に集中。回復は俺が」


 俺は2人が傷つくたびに、『怪我回復』や『体力回復』で援護。実質、この戦いで俺ができるのはそれだけだ。


 ゲームなら――地球のRPGならば、ボスキャラと戦うときは、HPが減るそばから回復していくというのが当然だろう。

 今、俺達がやっているのはそういう戦いだ。


 ゲームのキャラ達は苦痛を訴えない。

 例えHPが1まで減ったとしても、回復魔法さえかければなんということはない。


 現実の戦いではどうか。

 確かに、アレルもミリスも死んではいない。怪我も体力も、俺が何度も回復させている。


 だが。


 いくら回復できると言っても、炎に焼かれれば熱い。蛇の手に噛まれれば痛い。

 魔法で痛みは消えるかもしれないが、攻撃された瞬間は激しい苦痛を味わうのだ。


 ミリスとアレルは何度も苦痛を味わい、それでも俺の回復魔法で立ち上がっている。

 ある意味、これ以上凄惨な戦いがあるだろうか。


 そんな戦いを、俺とフロルは安全な場所――いや、ここだって安全ではないが、離れた場所で援護しているのだ。


「アレルっ!」


 フロルが苦しげに言う。

 俺も、ギリっと歯を食いしばる。

 ミリスはまだしも、幼子が、舌っ足らずなあの子が、苦しい思いで戦っているのに、俺達はっ!


 だが、だからといって、俺が変わってやることはできない。

 俺やフロルでは、ヤツらの前に出た途端殺されてしまう。

 俺にできるのは、ひたすら2人が死なないために回復魔法を使い続け、フロルにできるのは少しでも2人が有利になるよう攻撃魔法を使うことだけだ。


 そんな戦いも終わりに近づいてきた。


 残るセルアレニは2体。

 一方、俺のMPももう残り5くらい。どちらかの回復魔法を、合計2回使うのが精一杯だ。


「フロル、お前のMPは?」

「あと、25くらいです」


 よし、『氷球弾』を2回使ってもまだあまる。


「正直、俺はもうMPがほとんどない。あと2回回復させるのが限界だ。その後は回復魔法も頼む」

「はい」


 フロルは『怪我回復』は使えない。

 傷そのものを治すことは不可能。それでも、あとは彼女に託すしかない。


 アレルが1匹のセルアレニの首を切り落とす。

 フロルがもう一方に『氷球弾』をたたき込む。


 どちらもそれだけでは死なないが、『氷球弾』を当てた方にミリスが追撃。

 首は切り落とせなくても、顔面や関節部ならば彼女の剣も効くらしい。


 首を切り落とされたセルアレニ達は、まだ抵抗。

 アレルとミリスを炎が包む。


 俺はすかさず、2人に『怪我回復』をかける。これで俺のMPは残り1。もう、回復魔法は使えない。

 フロルが首のないセルアレニに『氷球弾』でとどめ。


 そして。

 なんとかその場にいた10匹のセルアレニを俺達は倒したのだった。


 ---------------


 俺とフロルはアレルとミリスに駆け寄る。


「よくやったな、3人とも」


 笑うミリスだが、肩で息をしている。アレルも辛そうだ。


「フロル、2人に『体力回復』を。俺のMPはもうないから」

「はい」


 フロルが2人に回復魔法をかける。


「そうだっ! バーツとカイ!」


 アレルが思い出したように叫ぶ。

 そうだった。

 2人を助けなければなんのためにやってきたんだって話だ。


 俺達はさっき反応があったあたりを探す。

 だが、見つからない。

 どういうことだ?


 俺が困惑していると、アレルが地面を手で掘り始めた。

 なるほど。2次元で探して見つからないなら、地中か。


 はたして、地面を30cmほど掘り進めると、2人を発見できた。

 よかった。2人とも、気を失っているが息はしている。


「ごちゅじんちゃま、2人は大丈夫?」


 俺は頷いて、フロルに言う。


「フロル、『解毒』と『体力回復』を頼む」

「ですが、そうすると、私のMPもなくなっちゃいますが」


 帰り道で俺だけでなくフロルも足手まといになるってことか。

 いや、だが、気絶した2人を背負うなりして運ぶのも、それはそれでリスクだ。


 ちなみに、『無限収納』には生き物は入れられない。近所の猫で一度試したが無理だったのだから、人を運ぶのには使えないだろう。


 さて、どうするか。

 迷う俺達。


 だが。


 次の瞬間だった。

 ミリスが叫ぶ。


「アレル、危ない!」


 ミリスがアレルを庇うように立つ。そのミリスの左肩に、直径10cmはあろうかという巨大な針が刺さっていた。


 なんだ!?


 慌てて、針が飛んできた方をみる俺達。

 そこには……


「まいったな、親玉がいたのか」


 全長15メートルはあろうかという巨大なセルアレニが姿を現わしたのだった。

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