2.魔法を覚えよう その1

 魔法講師のブライアン。

 その強烈すぎるキャラクターに、俺とフロルは戦慄する。


「ご主人様、こわいです」


 フロルの言葉に、俺も内心同意する。

 確かに恐い。なんかもう、色々な意味で恐い。命とは別ベクトルなものを失いそうで恐すぎる。


「だ、大丈夫だよ、フロル。魔法講師の方なんだから……」

「は、はい……」


 俺とフロルの声は震えていた。


「うん、もうっ。そんなに緊張しなくても大丈夫♪ わたしが丁寧に教えて、あ・げ・る♪」


 ひいぃぃぃ。

 魔法だよな?

 教えてくれるのは魔法だよな!?


 ある意味、ツノウサギに襲われたときよりも恐怖を感じるんだが!?


「まずは、2人のステータスを確認さ・せ・て♪」


 お前は一々語尾に♪マークをつけないと話せないのか!?


「ステータス、ですか」

「魔法はぁ、覚えられない人には絶対に覚えられないの。だからぁ、あなた達の魔力とかをぉ、確認させて欲しいのよぉ。もちろん、強制はできないけどぉ」


 なるほど。

 確かにそれは有意義な提案である。


「ご主人様、どうしましょう?」

「必要だって言うんだから、見せよう」

「はい」


 というわけで、俺とフロルは冒険者カードのステータスを表示して彼に見せた。ただし、フロルの職業欄の『ショート・アカドリの奴隷』というところだけは隠させる。色々と説明が面倒だからな。あと、俺のスキルも隠しておくか。


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 氏名:ショート・アカドリ

 職業:冒険者(レベル0)

 HP:32/32 MP:59/70 力:20 素早さ:10

 装備:旅人の服

 魔法:無限収納、地域察知、体力回復、怪我回復、火炎球

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 氏名:フロル

 職業:冒険者(レベル0)

 HP:22/22 MP:98/98 力:10 素早さ:10

 装備:旅人の服(子ども用)

 魔法:なし

 スキル:なし

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 カードを確認して、ブライアンは言う。


「まぁ、素晴らしいわ。2人ともMPがとても高いのね♪ これならきっと、色々な魔法を覚えられるわよ♪ もしかすると、私、負けちゃうかもぉ。ブラちゃんこまっちゃう♪」


 なんだろう。剣術の素振りとは別ベクトルでものすごく疲れる。

 俺の現在HPが減っていないのが不思議なくらいだ。


「まずぅ、魔法の習得についてぇ、基本的なことをおしえるわね♪」


 以降、ブライアンによる魔法習得の説明が始まったのだが、ここはセリフではなく俺なりの解釈で解説する。色々疲れるので。


 まず、魔法を取得するためには、契約の儀式が必要。契約相手は基本的に精霊か神のどちらか。闇の存在と契約する禁断の魔法もあるが、習得は絶対にオススメしないとのこと。


 たとえば、今俺が覚えている魔法でいうと、『無限収納』と『地域探知』、『怪我回復』は神との契約、『体力回復』は命の精霊との契約、『火炎球』は炎の精霊との契約が必要な魔法だという。


 また、契約できる魔法はその場によって異なる。エンパレの町で契約できる魔法は初級から中級の精霊魔法の一部だけ。別の町のギルドではまた別の魔法の契約が可能だし、ギルド以外の場所で契約できる魔法もある。

 中には特定のダンジョンを攻略することで初めて契約できる魔法もあるらしい。


 どの魔法を覚えることができるかは人それぞれ。また、魔法には相性というものもあり、覚えられたとしても相性の悪い魔法では威力が半減されてしまう。


「うちで覚えられる魔法はここに書かれているとおりよ」


 ブライアンはそう言って一覧表を取り出した。


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【炎の精霊】

 火炎球(銀1) …… 敵一体へ炎の球をぶつける

 火炎連弾(銀2) …… 複数の敵に同時に炎の球をぶつける。威力は火炎球より低い。

 爆裂弾(金1) …… 敵一体へ炎の球をぶつける。火炎球より威力が高い。中級レベル。

【水の精霊】

 水球(銀1) …… 水の球を召喚する。攻撃魔法というよりも飲み水などの確保用魔法。

 水球弾(銀1) …… 水の球をぶつける魔法。殺傷能力は低い。火事の消火にもどうぞ。

 水連壁(銀3) …… 水の壁を作り出す魔法。目くらましや攻撃の回避に

 氷球(銀2) …… 氷の球を召喚する魔法。攻撃魔法というよりもものを冷やすための魔法。

 氷球弾(金1) …… 氷の球を相手にぶつける魔法。

 吹凍雪(金3) …… 吹雪を巻き起こす魔法。中級レベル。

【土の精霊】

 泥沼(銀3) …… 地面を沼地に変える。敵の足止めなどにどうぞ。

【命の精霊】

 体力回復(銀2) …… HPを回復する。傷の治療はできない。

 解毒(銀2) …… 毒の治療。毒の種類によっては無効。

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 ちなみに『(銀1)』とか書かれているのは習得にかかるお金。銀1とは銀貨1枚ということだ。


「水の精霊の魔法が多いんですね」

「ええ、私が水属性なのよ♪」

「神との契約はできないんですか?」

「そっちは私も専門外。というよりも、教会の管轄ね。でも、神との契約が叶う人間はあまりいないわ。ショートちゃんの魔法は貴重よ。特に『無限収納』と『怪我回復』は冒険者なら喉から手が出るほど欲しい魔法ね♪ 下手に使えると知れわたると、危ない人達にねらわれかねないからぁ、気・を・つ・け・て♪」


 一番危ない人はあんたブライアンじゃないかというツッコミはさておき。

 なるほど。だいたい仕組みは分かった。


「『怪我回復』と『地域探知』は確かこの町の教会でも教えてもらえるはずよ♪ でもあいつらぼったくるのよねぇ。しかも、覚えられなくてもお金取るし。あ、ギルドでは覚えられなかった場合は料金必要ないから安心してね♪」


 さて、なんの魔法を覚えるべきか。俺は頭を悩ますのだった。

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