5.チート幼児は危険がいっぱい?

 冒険者ギルドの道場。その1階に小さな小部屋がある。

 本来は少人数の受講生相手に、講義をするときのための部屋らしいが、今は俺とミリスの2人が座っている。


「あの2人が未来の勇者、なぁ」


 俺の説明を聞き終えたミリスが困惑した声で言う。


 迷ったあげく、彼女には本当のことを伝えることにしたのだ。ただし、さすがに俺自身の出自――転移者であること――は言わなかった。話がさらにややこしくなる。

 あるとき、神様に勇者の双子についてお告げをもらって、彼らを育成するように命じられたといった話をしたのだ。


「正直、ショートの妄想という気がしてならん」


 まあ、そう言われても仕方ないが。


「そもそも、勇者や魔王なんて伝説の中の存在じゃないのか?」

「そうなんですか?」


 俺はてっきり、この世界の人々にとっては現実的な存在なのかと思っていた。


「確かに300年ごとに勇者と魔王が現れると言われているがな。300年前のことなんて誰も見たことがないだろう」


 確かにそりゃあそうだ。

 日本でいえば300年前は確か江戸時代中期。伝説とまでは言わないが、大昔である。


「とはいえ、確かに伝説通りならばそろそろ勇者と魔王が現れる時代ではあるわけか」

「はい」

「しかしなぁ、ショート。だからといって、あの2人が勇者だとか言われてもな……」


 とことん困った顔のミリス。


「アレルの力はこの目で見た。5歳児としては驚異的だと思う。フロルの頭の良さも、まあ、幼児離れしていると思わなくはない」


 そういえばフロルの頭の良さも天才的だよな。2人を相手にしているとアレルの方が知恵遅れに思えるが、むしろ5歳児としてはフロルの頭脳が発達しすぎなのかも。


「だが、それはあくまでも『5歳児としては』でしかない。はっきりいえば、ゴルは弱い」

「そうなんですか?」


 筋肉すごかったけど。


「あの年でレベル0な時点でお察しだ。ぶっちゃけ、ライトの方が剣術は上手いぞ。体力はともかくな」


 そうなのか。


「アレルは私が本気で戦えば普通に勝てる程度だ。そして、私程度の実力者はこの世にいくらでもいる」


 そうだろうなぁ。


「伝説の中の勇者といえば、幼い頃からもっととんでもない力と魔法を操っていたはずだ。私もそこまで詳しいわけではないが」


 うーん。


「そこら辺は、ちょっと、また神様に聞いてみます」


 俺のその言葉に、ミリスは目を見開く。


「神様と自由に連絡できるのか!?」

「え、い、いや、まあ、その、それは……」


 しまった。ついウッカリ口を滑らせた。


「いえ、そのうちお告げがまたあるかなぁと」

「……ふむぅ。そもそも神からのお告げを受け取ったというお前が一番何者なんだ?」


 うう。それは本当に説明しにくい。

 ええい、仕方がない。


「……実はよく分からないんです」

「はぁ?」

「気がついたら、あの魔の森にいたというか」

「………………」

「だから、どうにも世情に疎いわけでして」


 とことん疑わしげな目を俺に向けるミリス。


「記憶喪失というやつか? 確かに頭を強く打ったり、病気になったりして記憶を失う例はあるらしいが……」

「……まあ、そんなかんじです」


 うう。そんな目で見ないでくれよ。

 変なことを言っている自覚はあるさ。

 だけど、科学の発達した別世界で自動車事故にあって、幼女神様に転移させられたなんて、もっと信じてもらえないだろうしさぁ。


「まあ、一応、辻褄は合うがな。お前の世間知らずっぷりも含めて。

 ……納得できるかどうかは別問題としてではあるが」


 だろうなぁ。


「で、これから、お前達はどうするつもりなんだ?」

「とりあえずは、冒険者として力を付けようと。神様のお告げでも、まずはそうしろといわれましたので」

「まあ、身元不確かな男と、奴隷の子どもが生計を立てるとしたら、冒険者が一番やりやすそうだというのは同意する。

 アレルの天才性にかんしても認めよう」


 どうやら、ある程度は納得してくれたらしい。


「だが、それだけにショート、お前の責任は重大だぞ。あの子ども達――特にアレルはある意味危険だ」

「危険?」

「それはそうだろう。悪い子だとは思わんが、あの無邪気さで『風の太刀』なんぞをおいそれと街中で使われてみろ。それこそ、近所の子どもと喧嘩しただけで相手を殺しかねんぞ」


 確かに!

 言われて初めて気がついたがその通りだ。

 お子様同士で、たとえばオモチャの取り合いをして、泣きながら『風の太刀』とか使われたんじゃたまらない。


「そうならないためにも、お前がしっかりと教育してやることだな。剣術に関する指南は私も手伝うが」

「よろしくお願いします」


 俺は深々と頭を下げたのだった。

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