2.剣術をならおう その2
響き渡る女性の声に、フロルに襲いかかろうとしていたゴルの動きが止まる。
女性の正体は俺もよく知っている人。町の門番にて俺を奴隷商人ゴボダラの元まで案内してくれたミリスだ。
「ゴル。道場もギルド内だ。ギルド内での冒険者同士の争いは御法度。ついでにいえば、大人げない」
ゴルは「うう」っとうめく。
「ミリスさん。あなたも剣術をならいに?」
でも、彼女ってレベル3だと言っていなかったっけ?
俺が尋ねると、ライトが「違う違う」と手を振る。
「ミリスは俺達の先生だよ」
あ、なるほど。
「そういうことだ。よろしく頼むぞ、ショート。それに、アレル、フロル」
ミリスはそう言ってにっこり笑ったのだった。
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道場の壁には大小様々な太さ、長さの木刀がかけられている。
ミリスは最初に、俺達5人に好きな木刀を選べと言った。
ライトやゴルのとってはおなじみのことらしく、2人は迷わず選ぶ。ライトは自分の背丈の半分くらいの長さの木刀、ゴルは最も長くて太い木刀だ。
ふむ。
どういう基準で選べばいんだ、これは?
ミリスは何も説明しない。むしろ、俺達がどの木刀を選ぶのか興味深げに見ている様子だ。
俺が迷っていると、フロルが先に木刀を手に取った。
彼女が選んだのはもっとも短い木刀。それでも彼女の背丈の半分くらいはある。5歳児用の木刀などないのだ。
一方のアレル。
「アレル、これがいいー」
アレルが手に取ったのは、かなり長めの木刀だった。
いや、全体の中ではそこまではないが、それでも彼の身長より長い。
「アレル、そんなに長い木刀で大丈夫なのか?」
俺はちょっと心配になって聞く。
「うん、だいじょぶー、アレル、この木刀がいいー」
まあ、本人がそう言うのなら。
ここの先生はミリスで、彼女が止めようとしないのだから俺がこれ以上何かを言うこともないだろう。
さて、俺は。
正直どれを選べばいいのか見当もつかない。
結局自分の腕の長さほどの木刀を手に取った。
俺達全員が木刀を選んだのを見て、ミリスも木刀を手に取る。彼女が選んだのは背丈の半分程度の木刀だ。
「では、まず素振りからだ」
ミリスの指示に従って、俺達は剣を振り回すのだった。
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ミリスは細かく指示はしないタイプの教師らしい。
素振りをしろとはいったが、そこから先は何も教えてくれない。
彼女が動き、俺達はそれをまねる形だ。
まずは上から下へと木刀を振り抜く。
ゴルは力強く、ライトは素早く。
俺も見よう見まねでやってみるが、へっぴり腰だったのは否めない。
フロルも真剣な顔で木刀を振り回す。彼女が上手いのかどうか、おれにはさっぱりだ。
そしてアレル。自分の背丈よりもある木刀を、結構器用に扱っているようだ。
剣術修行の時間の半分――2時間ほどは、ひたすら木刀を振り回すだけで終わった。
というか、俺とフロルは途中で完全にバテていた。
ライトも汗まみれで息が荒い。
元気だったのはアレルとゴルだけだ。
「ふむ。それでは素振りは終了だ」
ミリスがそういったとき、俺とフロルはその場に座り込んでしまった。
「さて、少し休憩がてら話をしよう。ショート、剣で敵を倒す方法はいくつかあるが、例を挙げて見ろ」
え? 剣で敵を倒す方法?
意味が分からない。剣っていうのは敵を斬るためのものじゃないのか?
「えっと、剣で敵を斬る?」
自信なさげに答える俺。
「確かにそれも1つだ。だが、実際のところよほどの名剣でなければ肉はともかく骨まで斬るのは難しい。
剣で敵を倒す現実的な方法は、潰す、薙ぐ、突くだ。最後の手段として投げつけるというのもあるが」
想像するとなかなかにエグい。
双子に聞かせても良いのかなと一瞬思うが、2人とも興味津々といった表情だ。
「たとえば、上から下に剣を振り下ろすのは、相手を斬るためではなく、叩き潰すために行なう所作だ」
ミリスは言いながら、実際に木刀を振り下ろす。
ちなみに彼女は汗1つかいていない。俺達と一緒に素振りをしていたのにさすがである。
「逆に、このように横に振り抜けば、薙ぐことになるし、先端を相手につきつければ突くことになる」
ミリスはそれぞれの動作を実際にやってみせてくえる。
「最終手段の投げつけるというのはそのままの意味だな。剣を相手に投げつけて一発逆転を狙う。まあ、避けられたらどうにもならんし、よほど追い詰められた時以外は奨めないが、自分の命を守る最後の手段だ」
そこでミリスはいったん言葉を句切った。
「もっとも、東の国には斬ることを目的とした剣――いや、カタナと呼ばれる武器もあるらしいがな」
うん? それって日本刀みたいなものか? 東の国ね。覚えておこう。
「それでは、ここからは模擬戦を行なう。最初はゴルと……そうだな……」
「俺はそっちの兄ちゃんとやりたいぜ。ガキ相手なんてゴメンだからな」
ゴルは俺を木刀で指し示して言う。
いや、正直勘弁してください。全く勝てる気がしないどころか、そもそも素振りでクタクタだ。
「ふむ……」
ミリスは少し迷った顔。
だが、その時元気な声があがった。
「アレルやるー、もぎちぇん、アレルやるのぉー」
いや、アレル、模擬戦の意味分かっている?
「このガキ……いいぜ、相手してやる。せいぜい遊んでやるよ」
ミリスはさらに困惑顔。さすがにゴルみたいな乱暴者と5歳児のアレルを組ませるのは躊躇があるのだろう。
だが。
「ショート、確かお前は回復魔法を使えるんだよな?」
「ええ、使えますけど……」
「ならば、いざという時は頼む」
そういうと、ミリスはゴルとアレルに言う。
「本人達が望むならばいいだろう。ただしあくまでも模擬戦だということは忘れるなよ」
ミリスはどちらかというと、ゴルにそう忠告するのだった。
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