【番外編】

【番外編1】フロルとアレルと2人のご主人様

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(フロル/一人称)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私たち兄妹の両親は盗賊だったらしい。

 前のご主人様――ゴボダラ様は、だから私たちも咎人だと仰った。

 咎人の子どもは咎人で、奴隷として生きていくしかないんだと。


 前のご主人様は私たちをよく殴った。

 仕事に失敗しては殴られ、口答えしては殴られ、礼儀が悪いと殴られた。

 アレルは前のご主人様を恐がっていたし、私も好きではなかった。


 それでも、前のご主人様は私たちにご飯をくれた。

 粗末な食べ物だったけど、飢えさせはしなかった。


「お前達みたいな役立たずの咎人を養ってやっているんだ、感謝しろ」


 前のご主人様はことあるごとに私たちにそう告げた。


 ---------------


 アレルは私と双子だけど、ずっと幼い。

 いえ、もちろん年齢はおなじだけど、考え方とか行動とかが、幼稚だ。

 たぶん、5歳児としてはアレルが普通で、私の方が異常なのだろう。

 なんとなくだがそれくらい分かる。


 別に自分が天才だと自慢したいわけではないが、私は5歳にしては頭が回る。

 だから、私はアレルを護らなくちゃと思う。


 咎人で、奴隷の私にとって、アレルだけが家族なんだから。


 ---------------


 前のご主人様は、私に言った。


「お前らみたいなガキの奴隷を買うヤツはいねーだろうな。いるとしたらガキに夜伽させるような反吐が出る変態だけだろう」


 夜伽――意味はなんとなくだが分かる。

 前のご主人様のもとには女性の奴隷もいて、夜伽のために買われていったから。

 ご主人様自身も奴隷に夜伽をさせていたし、その前後に女性の体を洗う手伝いもしたから。


 そうか。私もそのうち夜伽させられるんだ。

 怖いけれどしかたがない。

 だって私たちは咎人だから。


 ずっと、そう思っていた。


 ---------------


 そんなある日、私たちは新たなご主人様に買われた。

 新しいご主人様はショート様という、若くてカッコイイ青年だった。

 優しそうな笑顔で、私たちを引き取ってくれた。


 どうせ夜伽させられるなら、このご主人様がいいかもしれない。

 私はそんな風に考えていた。


 教会でお祈りをした後、私たちは宿屋に連れて行かれた。

 そこで、体を洗ってもらう。


「じゃあ、2人とも裸になって」


 ご主人様の命令に、私は緊張してしまった。

 体を洗った後、いよいよ夜伽させられるんだ。


 無邪気に喜ぶアレルを横目に、私の気は重くなっていった。

 ご主人様は確かにカッコイイけど、それでもやっぱり恐い。


 だけど、奴隷契約書がある限り――いいえ、そうでなくても今の私たちにご主人様に逆らって生きることはできない。


 だから、私はせめてと思い、アレルが席を立った時を見計らってご主人様にお願いした。


「夜伽は私だけにさせてください。アレルはあの通りまだ何も分かっていません。それに男の子だし。だから、夜のお相手は私だけが……」


 私のその言葉に、ご主人様はたいそう慌てられた。


「ないから。そんな趣味ないから。もちろん、夜伽とか考えてもいないから」


 私はご主人様を誤解していた。

 その夜、ご主人様は私たちに話してくれた。


 ご主人様のお父様も強盗殺人犯だったと。

 だけど、ご主人様は自分が咎人だなんて思っていないと。

 だから、私もアレルも自分を咎人だなんて思うなと。


 その言葉を聞いていて、私はいつの間にか涙を流していた。


「本当に、私たちは咎人じゃないの?」


 敬語を使うことも忘れ、私は言った。

 ご主人様は深く頷いて肯定してくれた。


 私の中で、ずっとあった罪の意識。

 自分は咎人で奴隷で、だからどんなことがあっても受け入れなくてはいけないという呪縛が、ほんの少しだけど溶けていった。


 ---------------


 川原でツノウサギからアレルを庇った私は、腕に大怪我をした。

 ご主人様は迷わず私に回復魔法を使ってくださった。


 ツノウサギはアレルとご主人様が撃退して、私は何の役にも立てなかった。

 それどころか、奴隷の身の上でありながら、ご主人様にMPを使わせてしまった。


「申し訳ありません。ご主人様」

「何がだよ?」

「私ごときのために、ご主人様の貴重なMPを使わせてしまって……」


 そんな私に、ご主人様は初めて怒った。

 MPを使わせたことじゃない。

 私が謝ったことを怒ってくださった。


「私なんて二度というな。お前は俺の大切な仲間なんだかな」

「……仲間……でも私たちは……」

「そりゃあ、確かに俺はお前達を奴隷商人から買い取った。不本意ながら奴隷契約書にも手形を押したさ。だけど、俺はお前達を奴隷だなんて思ってないから。お前達は俺の大切な仲間だ」


 ご主人様は私やアレルを大切な仲間だと言ってくださった。

 咎人で奴隷として育てられた私たちを。


 純粋に嬉しくて。

 ご主人様に感謝して。


 だから、私は決意した。

 この人に私の一生を捧げようと。

 私を人間にしてくれたショート様に、私の全てをもって仕えようと。


 そして思う。

 いつまでもご主人様とアレルと、3人でいたいと。

 それは我儘なのかも知れないけれど、私たち3人でずっといつまでも一緒に。


 今の私の願いはご主人様の役に立てる人間になること。

 その為にならどんな努力もしよう。


 それが、これからの私の生き方だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る