第22話 風紀委員vs幼なじみ
中間テストが終わって最初の登校、俺は
「そろそろ教えてくれないか? 一体何の用があるんだ」
「じきに分かります。私は直接見ていませんが、あなたのクラスの担任はかなり困っているようですよ」
担任が困ってる? 何のことかさっぱり分からな……いや待て。思い当たる節が一つだけある。
教室に着きドアを開けると、俺に気付いた美優が、席を立って近づいてきた。だが森さんが俺の前で仁王立ちして美優に立ちはだかる。
「……誰?」
ま、そうなるよな。二人は今回が初対面のはずだ。
「風紀委員の森
「なんで私の名前知ってるの?」
「まず質問に答えてください」
「何って……雄輝にハグしようとしただけだよ」
森さんは「それです」と言って美優を指差した。やっぱり。
「あなたのその行動が学校で問題になっているんです。イチャイチャするなら
「えー? 別に減るもんじゃないしいいじゃん。それに森さんだっけ? クラス違うでしょ」
「クラスは違っても、学校の風紀を乱すような行動は黙認できません」
その言葉に美優は頬を膨らませて不満を露にしたが、意外にも大人しく自分の席に戻っていった。担任は容赦なく睨むのに……。
だが美優がずっと大人しくしているはずもなく、一時間目の授業が終わってすぐ、俺のもとにやってきた。
「雄輝ー!」
「はい来ました」
教師とすれ違いさまに森さんが教室に入り、手を出して美優を制す。
「ちょっとまた~? 森さん、なんで私の邪魔するの?」
「私だって好きでやってるわけではないんですよ。あなたの行動が目に余るから仕方なくやっているんです。ほら、関君からも言ってあげてください」
何をだ、と訊きたいところではあったが、俺は思ったことをそのまま言った。
「お前が俺に抱き着かなければいいだけだ。そうすれば森さんは来ない」
俺の言葉に森さんはうんうんと頷く。美優は「はぁ」とため息をつくと再び席に戻っていき、机に顔を突っ伏した。
その瞬間、男子の視線が俺に集中しだした。森さんはやや困惑気味に訊く。
「関君、あなた男子に何か恨みでも買われてるんですか?」
「イエスかノーで問われたらイエスだな。同学年の男子はみんな俺を嫌ってる」
「それはまたなぜ……」
俺はほかの生徒に聞こえないよう、小声で美優が俺を求愛していることを伝えた。まあほとんどの生徒は知ってるだろうけどな。
「なるほど、要は嫉妬ですか。あなたも大変ですね」
「まあな。だから同性の友人は一人もいない」
森さんは苦笑して「ドンマイです」と返すと教室を出ていった。
そして昼休み、俺はいつも通り美優と昼食を食べていた。美優は教室の外をやたら気にしていて、食事が進んでいない。
「美優、いちいち気にしてたら時間なくなるぞ」
「分かってるよ。でもすごく気になるんだよね。来るのめっちゃ早いし」
それは俺も思った。いつもどこにいるのだろうか。
「あー、朝イチャイチャできないのは辛いよ」
俺としては大助かりだけどな。毎朝抱き着かれるのはもう懲り懲りだ。
ふと、美優は箸でつまんだ玉子焼き食べようとして、動作を止めた。なぜ食べない。
「ねぇ、あーんして」
突然言われて俺はご飯を噴き出しそうになった。最悪の事態は免れたがかなり動揺した。
「美優、お前急にどうした」
「いや、朝抱き着けなかったからその代わりにと思って……」
「何バカなこと考えてるんですか」
声の方を向くと、森さんが教室の外から呆れた顔でこちらを見ていた。俺と美優は廊下側の一列目にいるので、森さんの声がよく聞こえる。しかし、マジで来るの早いな。俺たちの見えないところで盗み聞きでもしてるのだろうか(それはそれで問題だが)。美優は冷や汗をかきながら森さんに言う。
「私、まだ何もしてないよ」
「まだ何も、ということは何かをしようとしていたのでしょう? まったく……油断も隙もありませんね。次、同じことしたら呼び出しますから覚悟してください」
森さんはそう言って踵を返した。美優を見ると渋面を作ってぐちぐちと文句を言っている。
「なんで私ばっかり注意されなきゃならないのよ。……あ、でも朝『イチャイチャするなら他所でやってください』って言ってたから、学校以外ならいいんだよね」
いや、そういう問題じゃないと思う。……これ、根本的な解決にはもう少し時間かかりそうだな。
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