第20話 話し合い
ホームルームが終わり、俺はすぐ学校を出て帰路に就いた。
今日からテスト一週間前で、すべての部活動が活動停止になっている。萌絵は早く帰れるのが嬉しいのか、やたら上機嫌だ。
「お兄ちゃん、帰ったら何する?」
「お前それ訊くの何回目だ。勉強だっての。だから邪魔するなよ」
萌絵は笑顔から一転、唇を尖らせじっと俺を睨んだ。毎度同じことを訊かれる身にもなってくれ。
共に無言のまま家に着き、俺が玄関を開ける。リビングで姉貴と美優が向かい合って話しているのが見えた。美優が俺と萌絵に気付き、腕を大きく振る。
「二人ともおかえり~。ちょっとお邪魔してるよ」
「……なんでお前がここにいるんだよ」
「何? 私がいちゃダメなの?」
「いや、違うけど、どういう用……」
「なんか部誌の事で話がしたいんだって」
俺が訊く前に姉貴が答えた。部誌だと? テストが近いってのに呑気すぎるだろ。
「部誌は後でもいいだろ。そんなに急ぐことなのか?」
「日程的にはまだ余裕あるけど、できるだけ早く進めておきたいんだよね。去年はのんびしすぎて締め切りギリギリだったし……。それに、雄輝は小説書かないんでしょ? だったら少しは手伝ってくれてもいいじゃん」
俺はどっちかと言うと学業を優先したい。だが「そんなの知るか」と一蹴する勇気はない。
「手伝うのはいいけど、今はテストが先だ。お前は勉強しないのか?」
「普通に授業受けてたら問題ないって、それに、勉強してたら雄輝とイチャ……」
美優はその先を言いかけて
早めの夕食を済ませた後、俺はリビングに残り、美優と姉貴の三人で部誌の企画案を出し合っていた。萌絵は「私はいい」と言って部屋に戻っていった。
「よく考えたら、それぞれどんな小説書くのかは決まってるのか?」
「うん。部長はSF、吉田先輩はミステリー、私はラブコメ」
「姉貴は?」
「私は表紙のイラストと小説の挿絵。私は漫研の方に力入れてるから」
なるほど、役割分担はすでに決まってるのか。……俺いらないよな。
「雄輝は印刷と製本お願いね。今までは部長がやってくれてたけど、部長一人に負担かけさせちゃうのは申し訳ないし」
一番面倒な作業じゃねぇか。人数合わせで入った俺がなぜそんなことを……。
「雄輝、『手伝うのはいい』って言ってたよね。
「でも、俺、製本のやり方全然知らねぇぞ。印刷ぐらいはできるけど」
「それは部長が教えてくれるから大丈夫。私はやったことないけど、すぐ慣れると思うよ」
慣れると思う、か。説得力に欠けるが、高木先輩が教えてくれるなら問題ないだろう。
結局、話し合いは二時間にも及び、気付けば八時を回っていた。
「じゃあ、私帰りますね。今日はありがとうございました」
「ううん。こちらこそありがとう。久しぶりに話せて楽しかった」
「はい! ……あの、由奈先輩はもう部活来ないんですか?」
いきなりの質問に姉貴は少し戸惑った様子だったが、一拍置いて言った。
「ごめん。行きたいのはやまやまなんだけど、家事のことがあるから厳しいかな」
「そうですか……。すいません突然訊いちゃって、えっと、それじゃ私はこれで」
美優はそう言ってリビングを離れると、早足で玄関を出ていった。
「……なんで雄輝がついてきてんの?」
「もう外も暗いし、女子一人じゃ危ないだろ。途中まで送ってくよ」
「大丈夫だよ。家までそんな距離ないし……。あ、でも渡したいものがあるから、ついてきてもらおっかな」
「渡したいもの?」
「ほら、この前部室で原稿見せたでしょ? あれ、
ああ、僕っ
そんなことを思いながら歩くこと十分、美優の家に着いた。美優は「ちょっと待ってて」と言って急ぎ足で中に入っていき、三分ほどして戻って来た。
「はいこれ、ダメなとこあったら直接書きこんでいいから」
枚数は前回と一緒だ。内容がどう変わってるか見ものだな。
だが、家に戻っていざ読んでみると、思わず眉根を寄せた。
「……僕っ娘はどこ行った」
内容は主人公である普通の女子高生が、学校一の美男子と偽の恋人関係を作るというラブコメの典型的なテンプレだった。しかも登場人物が俺と美優になっている。ああ……もう嫌な予感しかしない。そして、俺は恐る恐る原稿をめくった。
『私、雄輝君のことが好きなの』
『悪い。俺、普通の女には興味ないんだ』
言わねえぇぇ!! 俺そんなこと言わないから!! そもそもなんで俺が学校一の美男子っていう設定になってんだよ。せめて俺をモブにするか男子の名前を変えろ。こんなもん文化祭で出したら余計敵増えるわ。
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