storia.01 2

 ただ一人レザルはカウンターに座りつまらなそうにそのギルド内を傍観していた。そして、その肩を叩く者がいた。

「どうした?」

「……何でもない」

 声をかけたのはナギアだった。反射的に強く言葉を返したレザルだが、意に介さずナギアは空いてる隣の席に腰を下ろして同じく踊りを観賞し始めた。

「そんなつまらなそうに見てやるな」

「そんなつもりはない……ただ、この騒がしさが落ち着かないだけだ」

「その気持ちはわかるけどな。そんな態度は表現者に失礼だ」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ」

「無理に楽しめとは言わない。だが、彼女の踊りは見るべきだ」

「……」

 それからナギアは口を閉じた。ヒスイの踊りに魅入っているらしい。彼は寡黙な男だが、ギルドに入ったばかりのレザルを気にかけてくれる面倒見の良さがあることをレザルはわかっていた。かと言って素直に従う気にもなれず、変わらずヒートアップする人々の姿を見ていた。つくづく自分は根暗な奴だと思いながら。



 やがて魅惑のショーは一番の盛り上がりを見せて最後の旋律が静かにギルド内に溶けた。拍手喝采の中で主役であるヒスイは恭しく頭を下げてショーは終わりを告げた。

 ショーが終わった後は観客も去り、ギルドはいつものように疎らとなり閑散としたものに戻っていた。

「おつかれさまヒスイ!今日も良かったよ!」

 ユーレアは一舞台を終えた本日の主役に改めて拍手を送った。ヒスイは照れていじらしく目を逸らすのかと思いきや、ユーレアに褒められた途端彼女へ突進してその豊かな胸に顔を埋めた。

「ありがとうございますー!今日も成功してよかったです!ユーレアさん抱いて!!」

「おつかれー。いくらでも抱いてやるぜ!」

 壇上の華やかでミステリアスな舞姫は何処へやら。男共の目の前で堂々たるセクハラをする彼女には勿体無いという言葉が酷く似合っていた。ユーレアもユーレアでノリがいいので困りものだ。

「ユーレアさんのおっぱい大きくて柔らかくて暖かい……揉みたくなる」

「はいはい、また今度ねー」

 そんな残念極まりないヒスイはギルドに所属する者ならば誰もが知っている姿だが、世間に晒すには多少問題ありだろう。リーリィはギルドのヒスイと踊り子のヒスイは別人だと割り切っているが、ブルハのように性格を知っているから余計好きという物好きもいる。

 ユーレアがやんわりとヒスイを離すと彼女は少しだけ膨れっ面をした。顔はかわいいのだが。



 天真爛漫なマスター、寡黙な戦士、破天荒な魔女っ子、根暗なトカゲ少年、高飛車なウエイトレス、残念美人の踊り子。誰が望んだのか、このギルドには個性が強い奴らが集う。

 そんなこんなでギルドの慌ただしい一日は終了する。日が完全に沈んだらようやく閉店の看板を掛けるのだ。それぞれ帰る場所がある者は皆帰っていく。

 誰もいなくなったその場所に二人、ユーレアとナギアだけが残ってコーヒカップを傾けていた。他愛ない会話の中でふとギルドの壁際に掛けられた青のタペストリーを見上げる、ユーレアがとある旅商人から譲り受けたという代物だった。名前と同じルリツグミの鳥を中心に置いたその絵は見る人によって様々な物語を見せてくれるのだと、その商人は言った。

 その話を思い出してか、彼女は微笑んだ。

「面白いよね。このギルドでは毎日違うことがあって、同じ一日なんてない。それって、このタペストリーに似てるよね!」

「……そうだな」

 無愛想な彼の同意を受けて、ユーレアはさぞ嬉しそうに笑顔を見せた。子どものようなその笑みは眩しすぎてナギアはそっと視線をカップに移す、そして少し冷めたその黒い飲み物を一気に呷った。さて、と空になったカップを持って彼女は立ち上がる。

「明日はどんなことがあるのかなー?楽しみだね!」

 ギルド『ルリツグミ』のマスターであるユーレアは喜々としてさえずった。そして、空のカップを片付けて戸締まりをナギアに押し付けたのはまたいつものことである。彼は苦々しく嘆息した。



――海色のタペストリーにはいくつもの物語。さて今日はどのお話をしましょうか

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