26 誇示
翌朝、千尋は携帯のアラームで目を覚ました。ベッドに浅葉の姿はなく、洗面所の方から物音がする。先に起きてシャワーを浴びていたらしい。じきに
「おはよ」
と髪を
「おはよ。例によって早起きね」
言い終わらぬうちに、まだ少し湿ったままの温かい肌に包まれる。大きな
「一緒に出ようかなあと思って」
「え? 出る前に朝ご飯用意してこうと思ってたのに。ゆっくりしてけば?」
「送らせてくれる? 大学まで」
「えっ、ほんと?」
そういうことならもちろん大歓迎だ。浅葉と過ごす時間が増えるのだから。
千尋は運転免許すら持っていないし、車での道順などさっぱりわからないが、そこは予想通り、全く心配無用だった。浅葉は何のナビゲーションもなしに、妙な裏道を何度か抜けながら、渋滞に引っかかることもなく大学のキャンパスに到着した。
正門の脇に車を寄せると、浅葉はわざわざ降りてきて千尋を抱き締めた。朝の大学入口というシチュエーションに配慮してか、舌を
ようやく解放されると、千尋は何となく周囲の視線を感じながら手を振った。
「ありがとね。じゃあ……気を付けて」
ありきたりな言葉だが、千尋はそこに
さっと手を上げて応えた浅葉の姿があまりに美しく、いつまでも見つめていたくなる。後ろから次々とやってくる学生の群れに流されるように、千尋はその場を後にした。
一限の教室に向かうため三号館に足を踏み入れたその時、バシッと背中を叩かれた。振り返ると、テニスサークルの後輩二人が、これでもかというぐらいニヤついている。
「チーさん、すごーい」
「彼氏いるとか聞いてないですよぉ。しかも朝っぱらから超ラブラブ」
彼氏ができた、という話は、同期の中でもごく親しい数人にしかまだしていなかった。
「あ……ご、ごめんね」
一応
「じゃ、後で詳しく聞かせてくださいね、彼氏のこと」
と千尋をつつき、二人は連れ立って二階へと上がっていった。
十二月二十二日。浅葉の携帯から電話があった。着信画面にその名を見ただけで千尋の胸は高鳴ったが、いざ出てみると、それは残念ながらデートの誘いではなかった。しばらく連絡できなくなる、という何とも残念な用件。
「しばらくって……」
「まだわからないけど、多分一ヶ月以上にはなりそうだな」
(そんなに……)
そんなの
「そう」
とだけ言った。
「こんなこと言ったからって
なんと特殊な仕事なのだろう。千尋は何と答えればよいのかわからなかった。千尋の心中を察したらしい浅葉も、それっきり黙ってしまう。
千尋は余計な心配をかけたくなくて、精一杯いい子を演じた。
「ちゃんと食べて、ちゃんと寝てくださいね」
「お前もな」
と浅葉は
次に会えるのは一体いつになるのだろう。いよいよあさってがクリスマスイブだというのに。
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