第2章 再会
12 日常
十月十五日。一限から四限までみっちりと授業が
ようやくシフトを終えての帰り道。千尋は電車に揺られながら、携帯の画面を見ているようで見ていなかった。
別れ
何となく落ち着かない日々が続き、食欲が落ち、体重も三キロほど減っている。自分が命を狙われたという事実によるものか、初めて聞いた本物の銃声のせいか、それとも……。
幸い、近所とはいえ、あの公園は通るまいと思えば通らずに済む位置にある。なるべく思い出さないように努め、どうしてもあの時の恐怖が
(今頃どうしてるかな……きっと私のことなんか忘れて、他の仕事で忙しくしてるよね)
一ヶ月経っても落ち着かないようなら……という最後の日の言葉。あれから五週間が過ぎていた。
生活自体は間もなく日常を取り戻し、夏休みの残りの期間はバイトに明け暮れた。
十月に入り後期の授業が始まると、千尋のカレンダーは再び授業とサークル活動、バイト、そして飲み会に埋め尽くされた。しかし、完全に落ち着いたかと聞かれれば、やはりそうとは言い
友達とはしゃいでいる時でさえも、
帰宅して携帯を取り出し、千尋はあの番号を見つめた。
あの日、浅葉が千尋の電話に打ち込んだのは、携帯の番号だった。それを千尋は「例の」という名前で登録していた。
専用の相談窓口と浅葉は言っていたが、それはいわゆるPTSDだとか、そういった深刻なケースを想定してのことだろう。この
しかし、疲れた体に熱いシャワーを浴びているうちに、お世話になった警察組織への
濡れた髪をタオルで包み、携帯を開く。十一時を回っていた。こんな時間だし、どうせ
十月二十日。月曜は四限の後まっすぐ帰宅することが多いが、今日はレポートのための調べ物で少し遅くなった。図書館を出た千尋は、ぞろぞろと連れ立ってキャンパスの出口に向かうサークル仲間に出くわした。
「ね、千尋も行かない?」
と既にどうやらいい気分になっているのは、同じ二年の
月曜は練習がないから、四限明けか下手すれば昼過ぎから部室で飲み始める連中がいる。今日もそのパターンだろう。テニスサークルとは名ばかりで、練習はどちらかというとおまけのようなもの。メインの活動は飲み会、というのが実態だ。
「ごめん、レポート」
と、千尋は両手を合わせる。
「なーにお利口ちゃんぶってんの? そんなの飲んでからでいいじゃん」
「そう言ってて前期に落としたやつの
「いいじゃん、そんなのもう。落としたもんなんか忘れて、次いきなよ、次!」
(そういえば……)
千尋は、孝子が最近彼氏と別れたばかりなのを思い出した。このところつい飲みすぎるのもそのせいだろう。
「おいおい、そのぐらいにしとけ」
孝子をたしなめたのは、三年の
「すみません、ヨシさん。孝子大丈夫かなあ、この後」
「いつかみたいに
「ウーロンハイって言ってウーロン茶飲ませとけば、どうせわかりませんから」
「おっ、さすが専属調教師」
「シーッ」
と千尋は人差し指を立てながら笑いをこらえる。酔って荒れだした孝子は千尋がなだめるとおとなしくなる、という
皆と一緒に歩いて正門に着くと、居酒屋に向かう仲間たちが千尋に手を振った。
「じゃ、お疲れ」
「レポート頑張れ」
「うん、ごめんね、またね」
集団の最後尾に残った義則が千尋に歩み寄る。
「気を付けてね。あんまり無理しないで。じゃあまた……あさって」
千尋は笑顔で
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