王宮内部組織と様々
看護長のグッドバイ
それが女の口癖だった。『さようなら』『あなたともう会わないことを願っています』。まなじりのつった目。開かれた口はただ淡々と別れを告げる。
女の名はプロクネといった。彼女はグッドバイと呼ばれた。自身の口癖のためだ。看護長の役職に就き、伏せった患者を看る彼女の舌は嘆きの歌を知っている。涙に湿る冷たくなったベッドを知っている。花で満ちる『ベッド』を知っている。だから彼女は繰り返す。『さようなら』『
看護長。看護団の長。看護団は王宮所属の軍団だ。正規軍の一部であり、一般の医療機関とはやや異なった事情を持つ。魔法を司る電波塔は様々な集団に狙われており、それらのもたらす戦闘はしばしそこへすむ住人を怪我人と死者へ変えた。それをなんとかするのが彼女の率いる看護団の役割だった。構成員には戦闘の心得のあるもの、治療のできるもの、人体への理解が深いものたちが集められ、そのどちらもに秀でた彼女は看護長へと任命された。
グッドバイ。退院は別れだ。グッドバイ。死別もそうであろう。グッドバイ。彼らは戻らない。グッドバイ。再会を望まない彼女は一回きりの別れを繰り返す。
さようなら。つり気味に細められた目はぶっきらぼうに告げる。彼女の冷たい手さばきと、淡々とした調子で告げられる別れは見るものへ恐怖をもたらした。プロクネは現場に立ち続けた。しなやかな足は死んでも生きてもいない狭間のくにから人間を此岸へと蹴り出してゆく。望む状態を願いのままに。それがプロクネの使命であり、成すべき悲願であった。別れはいつだってそこにある。
構成員はプロクネを畏れ、遠巻きに接した。プロクネもそれを良しとした。日々は慌ただしく、時にぐずぐず進んでいき、てきぱき働く看護長の不機嫌そうな無表情は変わらない。ただひとつ、日の暮れた後の病院墓地から響くプロクネの『嘆きの』歌だけが、表出される彼女の悲しみの全てであった。
(続く)
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