妖精頭のマリア-2
時計の鎖を指に絡め、カロンは周りを見渡す。「そこの女魔術師はそもそも特別枠だ。推測が正しければ、俺から魔法の力を奪おうとしたのはあんたで間違いない。そうだろう? 俺はきちんとした手続きを踏まずに妖精(女魔術師の使い魔)と別れた。だから力を消されていない。自分が魔法使いだと覚えている」カロンが視線をよこしたので、不承不承という様子でヴェニーも口を開く。「……私はそもそもこの街の生まれじゃない。私は生まれながらに魔法が使える。マリアには人間にしてやると言われたが断った」ヴェニーはそう言って、少し迷惑そうな顔をした。女魔術師は苦笑する。「訂正するほど間違っているわけでもないが、ずいぶんな言われようだ。私は魔術師と呼ばれているのは知っているだろう? 魔術師が魔法を使えない道理はないな」
ふと気がついたようにヴェニーは言った。「もしかしておまえ、この街の出身じゃない? 孤児なのか?」女魔術師は首を振る。「いいや、ヴェニー。この男は間違いなくこの街の出身だよ。出生届が出ているし、両親も健在だ」「じゃあなぜなんだマリア。あとどうしてこんなに魔法を使うのが下手なんだ。両親がいるんだろう?」ルカはぎょっとした。「この街に『魔法使い』の親はいないよ。……しかしなぜと聞かれてもな。私にもわからない。全くの未知なんだよ。不思議なものだ」
「……カロン、俺はそんなに魔法を使うのが下手か?」戸惑いながらも黙って話の行く末を見守っていたルカが呟く。ああ、気にしているな、とカロンは思った。「まあな。最初見たとき目を疑った。ああ、もしかしたら記憶を中途半端に消されているのかもしれないな。それなら合点がいく」話を聞いていた女魔術師は首を横に振った。「その男に記憶処理の跡はない」「……つまり俺には跡が見えると?」カロンは嫌みっぽく言った。「おや……答えた方が良いかな?」「いいや。結構だ」
女魔術師は頭をゆらりと揺らした。「不思議といえばもう一つ。カロン、『妖精』が私に連なるものだとどこで知ったんだ? まさかロールに聞いたわけじゃあるまい。あれは優秀な子だった」カロンはそれを聞いて少し嫌そうな顔をした。「あんたの弟子ってやつが教えてくれたよ。……最も『あんた』に弟子はいないだろうが」「奇妙なことをいうね。まあいいよ」
詳しいんだな、とルカは言った。会うのは初めてだと言っていなかったか、と問われたのでカロンは肯定し、直接会うのはそうだ、と答えた。
「しかし王子のやつも妙な拾いものをしてきたな」「……ルイが連れてきたのか?」魔術師は頷く。カロンは肩をすくめた。「それで俺たちはどうなるんだ? まさかそのまま帰してくれるわけでもないんだろう?」こいつはそのまま返したっても問題なかろうが、とカロンは言って、ルカの方をちょっと見た。女魔術師はふむ、と言った。「どうしようかなぁ。ああでもカロン、君を拘束する気は無いよ。だからそんなに睨まないでおくれ」「俺を捕まえておく気は無いと? いいのか?」「良くはないよ。でも王宮内に置いておいても利があるわけでないし、不自由を理由に暴れられでもしたら困る」君にはそれだけの力がある、と魔術師は言う。「それよりも君だ、ルカ」
「……俺か?」そうだ、と言って女魔術師はルカの魔法の力の奇妙なところをかいつまんで説明した。そしてそれが電波塔の管理体制にどう影響を与えるかも。「その力が何によるものなのか、こちらでも少し調べよう。協力してくれるか」電波塔の主、マリアは塔に留まるよう言った。ルカは少し迷い、それを承諾した。
(続く)
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