実習生のルカ

ルカは柔らかな桃色の服を身につけた。魔法を補佐する特殊な衣装だ。上半身に沿うように縫われ、腰から下が大きく広がるようにできている。わずかな光を集め、遠くからでも見える布で作られた服だ。ルカは先の三股に分かれた銀の杖をくるくると回す。認証はすんでいる。今夜集められたのは成績上位の生徒だけだ。今日はいつもより過酷になる。そう聞かされた。


女王候補とは何をするのか。女王とは何をするのか。そも女王とは何なのか。無論、すべてを許された存在などは絵空事だ。自由には責任が、大いなる許可にはそれ相応の理由がある。


炎も水も、ありとあらゆる力は破壊をもたらしうる。それがなぜ無条件に許可されるのか。なぜ、一切のお伺いを立てることなくすべての裁量が委ねられるのか。女王とはなんなのか。


女王とは街を守る自警団の頭である。街の自警団と言っても無論そんなせせこましいものではない。電波塔に付随する魔法の許可裁量権を狙ってやってくる全ての『塔に仇なすもの』を確実に無力化・処理していく定めを課せられた軍師である。軍師と言っても首都防衛の正規軍はまた別にある。女王は専ら少数精鋭の軍を率い、自らが囮になり、敵を攪乱させ潰していく。女王というのは血生臭い運命を背負った役職だ。


なぜ無条件に許可されるのか。なぜ、一切のお伺いを立てることなくすべての裁量が委ねられるのか。簡単だ。防衛戦のいっぱしを担う以上、女王は全ての手を打たねばならぬ。どんな手段であれ、反乱分子は片をつけなければならない。それから、女王には替えが効かない。手段を選んではいられないのだ。いくら寄せ集めといえども、めまいのするような規模の軍勢にたった一人で立ち向かっていって、最後まで立っていねばならぬ。そして女王はそれができる。否、やらねばならぬ。それこそが女王の務めなのだから。


国中を探しても二つと見つからないようなとびきりの派手な衣装を着て戦場を駆け回る。降り注ぐ刃の『まと』になり、他軍から狙いをそらす。女王は狂犬だ。ただひたすらに戦場を荒らし回り、戦闘が常態化したこの街で事を有利に進めるためだけに存在する。原始的な力による外敵への圧政、それこそが女王の仕事だ。女王に任命されたものは粛々とその務めを果たす。たとえ街の中で眉をひそめられ、来る停戦協定のとき火に焼べられる運命だとしても。


ルカは夕方の街を駆ける。女王候補の誉れを受けたルカの杖は今や学生に許可されうるクリアランスのほとんど全ての魔法が使える。当然無為に打つことはしない。ルカは与り知らぬ事だが、免許を交付されたことで事を起こすような人間は場合如何で投獄される。危険分子を女王にするわけにはいかない故の処置だった。


ルカは駆ける。街の外が近い。小規模の侵入者が出たというので、指導の下で押さえ込みを手伝う。それが今回の実習の大まかな内容だった。ルカは闇の中でもなお目立つ赤い髪をなびかせながら、ルイスの黒い衣装はさぞ闇に溶け込むのだろうと考え、飛んできた流れ弾を地面にたたき伏せた。


(つづく)

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