第16話 守護者の目覚め

《優先度SS救援要請を受信・システム再起動...通常起動失敗》


《自己診断開始...ディメンジョンリアクターの完全停止確認、再起動...不能》


《確認、予備発電機能に切り替え...機能せず》


《残量イオンバッテリー...残量1.8%...緊急処置、システムセーフモードにて強制起動》



ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー





…!!




…!!




「………」



泥の中からゆっくりと浮上する様に


微睡んだ思考が何かを認識する


薄っすらと空けた、または最初から開いていたのか


瞳が光を認識し脳に信号を送り、回りが霞む光景が広がる


薄暗く狭く機械に覆われた空間、僅かな光によりそれが確認出来る


光...


光の元をじっと見つめる、それは自分の顔から

30㎝程前に浮かぶ半透明のディスプレイだ

その隅で何か赤く点滅している

それをぼんやりと見つめる



ー!!



ーッ!!



何かが鳴っている...耳からの信号に脳が気付き始める



ビーッ!!


『…95、96、97』


ビーッ!!


やがてそれが今自分が居る狭い空間に鳴り響く警報音である事が理解出来た

喧しく鳴り響く警報の合間になにやらカウントダウンが聞こえる


女性...いや機械音声の様だ


『98、99...通常空間への同期完了

 空間隔離解除完了』

 次元冬眠解除完了』


(冬眠...俺は...)


『続いて覚醒プロセス開始......失敗、

 補助脳内量子記憶ユニットに損傷を検知』


(そうか...ここはポッドの中か...)


深い水の底で、手を差しのべる様に思考を辿る


『緊急性を認む、自己判断による処置を実行

 任務遂行に必要な情報を優先選択』


『補助脳領域内に大規模な記憶容量の不足を確認

 空き容量計算...完了

 Gスーツ稼働制御プロトコル最優先

 次に通常戦闘プロトコルを優先的にダウンロード...完了』


次の瞬間、霧が晴れて行く様に濁った思考は澄んでゆく

それと共に様々な思考が頭の中に生まれる


「かっ!...っぷはぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」


目を見開き、長く息を止めていたように

溜まっていた空気を肺から吐き出し、呼吸を開始する


(俺は一体どれ程寝ていたっ...状況はっ!)


途端に思考が目まぐるしくかけ始め、目の前のモニターに焦点を合わせる


「なんだ...これは...っ」


思わず声が漏れる


目の前のディスプレイには世界地図が表示されていたが

何一つ自分の知る物と一致する地形も、大陸すら確認出来なかった


「地球...なのか...?」


しかし紛れも無くそのデータは地球型惑星を示している


「...っ!プロメテウス!

 ”最終作戦”はどうなったっ!!

 あれからどれだけ経った!?」


狭い空間の中で、自分の声が反響する


『思考の混濁を確認、任務遂行を優先、一時感情抑制プロトコルを起動』


その様な音声が聞こえたかと思うと

一瞬頭がふわっっと浮いたような感覚に襲われた


「うっ......」


次の瞬間には先程まで自分の中にあったはずの

激しい感情の波は消え去っていた居た


「すまない、取り乱した」


今自分が目覚めたのは自分に成すべき事があるからだ

ならばまず自分は何を成すべきなのか

そして成すべきことに今は集中しなければならない


目の前の空間には半透明のディスプレイが表示されている

そこには成すべき為に必要な物が表示されている


「こちら03、準備完了だ

 作戦内容の指示を求む」


ポッドの中で一人何かに話しかける


『外部センサーの殆どが機能停止の為、正確な外部情報分析不能

 以後の情報は暫定的な情報である旨留意せよ』


『優先度SSクラスの救援要請を受信

 LG03の任務内容は目標への軌道降下の後

 要請者の速やかな救出・安全確保である』


それに答える様に機械音性が次々に反応を返す


「降下目標は」


『事態は緊急性を認む、以後の説明は降下シーケンスと並行して行う』


一瞬ポットが揺れ

正面モニターに外部カメラの映像が流れ始める

機械の壁の中を下方向に移動している様だ


『降下目標、地形・座標共にデータバンクに該当無し

 降下地点の外部観測不能、救援信号のデータにより

 旧極東連合本部・旧東京司令部内に設置されていた

 都市統括補助ターミナルより発せられた物と推定』


「了解、同作戦に参加する他部隊・全体戦力の詳細を求む」


『01、02並びに04から22までの残存していたLGメンバー並びに

 ポッドは先のゲート奪還作戦により全機未帰還

 後、補給を受けた形跡は現在確認出来ない

 従って今作戦に於ける当艦からの投入戦力は03のみとなる』


モニターに新たなウィンドウが次々と表示される

01から22と表示された卵方アイコンが並んでいる


自分のものであろう03の緑表示以外

全てが赤でスラッシュ表示になっている


「他の地上拠点・又は同衛星軌道戦力による支援は可能か?」


『地上・及び同衛星軌道上に於ける全てのデータリンクが消失

 現状要請に対し当艦以外の共同作戦・支援要請は不可と判断』


「了解した」


『ポット離艦準備完了、降下起動へと最終姿勢調整へ移行』


次の瞬間モニターに映って居た機械の壁の流れが途切れ

画面が広がる暗黒に空間と瞬く星達を映し出す

一切振動は何も感じられなかった


ゆっくりと景色が回転し画面の端から巨大な壁を映し出す


自分のポッドが出て来たであろう穴が見える

周囲にも同様の穴が規則的に並んで開いているのが確認出来る


徐々に壁から離れて行くに連れその巨大さが見えてくる

全長何百...いや1㎞はあろうか


そこには巨大な剣、又は三椏の槍の矛先の様な形状純白の船体が

太陽の光により淡く輝き、悠然と虚空の空間に佇んでいた


しかし人工的な光は一切確認出来ない

所々白を基調とした特殊装甲部以外の船体から一部露出する

機械部からは明らかに劣化による変色・腐食が所々見みられる


無酸素の宇宙空間では基本的に酸化による腐食は無い筈だが

何らかの他の働きによるものか、中からの影響なのかはわからないが

相当の年月が経過しているのだろう


だが所々剥がれつつも上部装甲側面には大きく


<< LGSS-006 PROMETHEUS >>


の文字がハッキリとまだ読みとる事が出来る


『軌道離脱、加速開始』


直後、強烈なGが頭上方向にかかる

先程まで目の前に巨大な船体はあっと言う間に米粒大になり

宇宙の星の一つに加わる


そしてカメラが進行方向

恐らく自分の足の下にあるであろうカメラに切り替わるとそこには

青く美しい惑星が広がっていた


(やはり間違いない...ここは...地球だ。)


根拠は無い、少なくとも数度前まで見た地球は

灰色の雷雲立ち込めた死に行く星その物であった

だがしかし確かに確信出来る物が胸の内にはあった


『ポッド第二加速・目標到達までの予想時間2分30秒

 大気圏垂直突入、防護フィールド展開

 各部最終チェックを開始せよ』


すぐに星の輪郭は見えなくなり

大気の渦の隙間から山々が見えてくる程の距離に迫り

徐々に景色を赤く染め始める

間髪入れず指示が入る


「了解、網膜表示起動、スーツとのリンク確認」


モニターとは別に直接自分の網膜に

様々な情報が表示され流れて行く


「リアクターコア...チェック

 背部・腕部・脚部スラスター...チェック

 各種アクチュエーター...チェック

 母艦とのデータリンク...チェック

 外部D兵装、量子脳領域不足による制御プロトコル不足、使用不能

 チェック完了。」


「03ポッドよりプロメテウスへデータ転送

 落下地点の詳細データを求む」


『03ポッド各種センサーと同期完了...解析

 目標地点には多数の敵性異次元命体アデスの反応を検知

 精度不足により推測値、およそ3000から5000

 現状戦力を鑑み可能な限り戦闘は避け目標の救助、後即時撤退を推奨』


「アデス...了解した」


(人類はあれ程の犠牲を払って尚...

 奴等を駆逐出来なかったというのか...)


『間も無く大気圏を突破します』


ディスプレイに表示される景色が徐々に赤から色を取り戻す

広がったのは只管画面の端から端まで広がる緑だった

その目指す先、中心部に円状の人工物らしき影が見える


『降下目標、目視範囲に接近、最大望遠』


(なんだこれは...中世様式の建造物郡...?)


『人間の生命反応を1つ検知、救助目標と推定』


拡大された都市の映像に1つ、緑の点が表示される


『その周囲に50m程に高密度のアデス群確認、個体識別

 インファント級41

 ワイバーン級28

 ソーラス級1』


直後無数の赤い点の表示が広がる


「降下直後に包囲される可能性がある、艦砲支援は可能か?」


『本艦のエネルギー残量は1.7% 小口径光学兵器による支援が1度可能です』


「降下5秒後、救助目標を中心に半径50m以内の

 インファント級及びワイバーン級に一斉斉射」


『支援要請受諾、03ポッドより間接照準

 指定範囲内目標...57体を補足完了

 降下完了まで後15秒』


地面に向かい物凄い速さで近付いていく

雲は完全に晴れ、都市全体がモニター一杯に広がる


「パージ!!」


次の瞬間、体を包んでいたポッドはバラバラになりはじけ飛び

破片はそのまま空気抵抗を受け上方向へと飛散する


瞬間視界に光があふれ、強烈な風圧が全身にかかる


既に高度は約500m程

家屋の屋根一つ一つがハッキリ見て取れる距離まで来ている


ディスプレイの情報は網膜ビジョンに瞬時に受け継がれ

下方に広がる街並みの中に緑と赤の配置情報が表示される


緑の点のすぐ近くまで赤い点の一つが迫ろうとしていた


その赤い一点を見つめ


右腕を大きく振りかぶる


点は敵へと姿変え


そしてそのままの勢いで


落下と同時に


ー貫いたー


そして腕を抜くとインファント級アデスは絶命しその場崩れ落ちる


直後網膜映像のレーダーに表示された無数の赤い点が

一斉に自分の方向へ移動を始めかけたその時


背部から強烈な光が差す

プロメテウスからの寸秒違わぬ艦砲射撃だ

一瞬にして周囲の敵正反応が消えて行く


ーーーー

ーーー

ーー




ーあれからどれ程の時が経過しているのかー


ーここが何処なのかー


ーそんなのはどうだっていいー


俺の目の前に

通りの隅に投げ捨てられたボロ人形の様に

瀕死の少女が、口から体中から血を流し横たわっていた


ーこんな少女を何度も見て来たー


少女は虚ろだったその瞳を

一瞬僅かに見開き俺を見つめる


ー俺はこの目を知っているー


少女は僅かに口を動かす


ー分かっている、その為に俺は来たー


動かした少女の口から声はもう声になって居なかった


ー大丈夫だ、俺はー


少女に1歩歩み寄り、そっと膝を降ろす


そして...



「君を助けに来た」



少女は安心した様にゆっくりと見開いた瞳を細めていく

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