第3話 異変 前編

- 第3話 異変 前編 -

「なんか……胸騒ぎがする。peaceでなにかあったのかな」

突然ポツリと呟いたライルは胸騒ぎがすると訴えた。なにか感じたようでどこか悲しげな顔をしていた。でもこんなことは目が覚めているのがレアなだけで珍しくない。ライルが感じたことはだいたい当たっている。いつもと様子が違うライルにみんなは心配する。peaceで何かあったとすればpeaceのみんなが心配だ。

「心配ではあるがここまで来たら戻るわけにもいかないしな」

デュートが唸りながら腕を組んだ。いつもpeaceを閉める時間が異なっているためにさらに心配になる。

「大丈夫だよ、peaceのみんななら」

バレストリが気を遣ってライルを慰めるようににこりと笑った。今日は力持ちで喧嘩が強いダグが来ていたからきっと大丈夫だと僕も自分に言い聞かせた。それでもライルの表情は曇ったままで僕はガッツポーズを作り大丈夫と何度も笑ってみせた。しばらくしてやっと小さく頷いたライルは再び眠りに落ちた。

「大丈夫なんですか?本当に……」

ソフィアさんも心配してくれていた。それに対しデュートはこれ以上の心配をさせまいとすぐにやられるようなヤワな奴らばかりじゃないとかっこよく言っていた。僕も負けじと首が取れてしまうほどに上下に首を動かした。

そんなことをしているとラウリニア地区の最寄駅に到着した。早かったような遅かったような。これから馬車に乗ってラウリニアに行く。それがまた道が不安定で酔ってしまいそうだ。少し大きめの馬車に乗り、目的地を伝えると御者であるおじさんの顔が一瞬にして曇った。


「あんたらあんなところに行くのかい」


アンラ帝国で一番小さい地区、としか知らない僕たちは全く意味がわからなかった。


「どういうことだ」


デュートが腕を組みながら低いトーンで問う。すると御者はデュートの低い声に怖くなったのかなんでもないとあっせたように誤魔化していた。御者の曇った顔はラウリニアに着くまで変わらずタバコを何本も吸い、動揺しているように見えた。未だ御者の言葉が引っかかったままラウリニアに着いてしまった。でも初めてラウリニアに上陸した僕は少しテンションが上がっていた。馬車を降りて深呼吸をし、大きく伸びをして自然が豊かだだのミエリドラとは全然違うだのと目を輝かせながら1人ではしゃいでいると、ダーマンに口を抑えられた。僕はなぜこうなっているのかが理解できていなくてしばらく暴れていた。

「どうやら私たちは招かれていないようだな」

デュートが面白いものを見たかのように呟いた。それを聞いて今の状況を理解した僕は興奮を抑えおとなしく周りを見回した。デュートの言う通り住民みんながこちらを睨んでいた。御者の言ったことが今、納得できた。たしかに寄せ付けない雰囲気だ。

「ラウリニアの外からやってくる人があまりいないのでみんな警戒しているんだと思います」

ソフィアさんはそう言うけれど警戒するってことはラウリニア外から来た人になにかされたんだろうか。ここはとても自然豊かだしミエリドラのように人で溢れかえっているわけでもないから協力しあってラウリニアが成っているのだろうけどだからこそラウリニア外の人がなにか余計なことをするのかもしれないと疑っているということなのだろうか。僕はその疑問を自己解決し歩き出したソフィアさんの後ろをついて歩いた。

なにか面白そうなものはないかと見ていると周りとは作りの違う建物がちらっと見えた。おそらく家ではないだろう。小綺麗な白い壁にほんの少し背の高い建物で田舎臭いここには場違いであった。

「僕ここらへん散歩して来ていい?」

その建物が気になりすぎた僕はデュートに許可を得ようと聞いた。初めて来た場所で土地勘のない僕はあまりうろちょろするなとデュートに言われていたことを思い出しつつ怒られるのは分かっているけどそれよりもあの白い建物が気になってワクワクしていた。

「いいぞ、ソフィアさんこいつをうろつかせても?」

随分とあっさりした返事に僕は驚いた。いつもは怒られるのに。さらにデュートはソフィアさんに一言聞いた。ソフィアさんも快く受け入れてくれて僕はニコニコの笑顔でお礼を言い、白い建物の方向に足を向けると指先でツンツンと肩を突かれた。振り向くとバレストリがそっと耳打ちをしてきた。

「デュートが怒らないのは何か気になるものがあったんだと思う。丁度いいタイミングでルーカスが話したからきっとルーカスに見てきて欲しいんだよ」

優しく耳元で簡潔に話してくれた。デュートが思っていることを理解できてしまうバレストリがすごく綺麗に見えた。さすが仲良しだな。僕はバレストリの説明にコクリと頷き再び足を白い建物に向けた。ソフィアさんが私の家は角を曲がった3軒目の家だからと教えてくれた。よかった言ってくれて、あまりよろしく思っていないラウリニアの人たちに道を聞くことなど怖くてとてもできない。

「私たちは招かれていないのだからあまり首を突っ込むなよ」

「わかってる!」

去り際にデュートが親のように注意する。暗くなる前に帰ってきなさいよ的な。首を突っ込まない方が良いことぐらいここの雰囲気で僕でもわかる。今でもどこからか寄せられる獣のような視線に背筋を凍らせているぐらいだ。怖くて周りを見渡すことができない僕は白い建物へ一直線に向かった。デュートが気になっているものを見てきてほしいとバレストリに代弁されたけど今は無理そう。小さい倉庫のような建物がずらりとならんでいてそこの隙間から視線を感じるんだもの。全速力で走って白い建物の前までやってきた。教会かと思っていたけど違うみたいだ。背伸びをするなどどうにかして中を見ようとしてると後ろからシャツの裾を引っ張られた。後ろを振り向くとそこには10歳も満たないような男の子が立っていた。



To be next scene…

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