出会い  2

フェリー乗り場までは自宅から車で30分程度で到着した。


県庁通りから高松駅近くまでは思った以上に渋滞していたけど、早めに家を出たおかげでまだ時間には余裕があった。




一度迂回してサンポートの外周道路からフェリーターミナルに向かった。


この辺りは再開発が進んでいて、多目的広場やホテルクレメンス、シンボルタワーやサンポート高松など四国の玄関口としてふさわしい様相を見せている。




道路標識を確認しながらゆき兄はフェリー乗り場へと入っていった。


そして何個かあるフェリー乗り場から係員の誘導に従い、俺達の乗るフェリーの乗船場所に車を停めた。




まだ俺達が乗るフェリーの姿はフェリーターミナルには無かった。


フェリーの乗船を待っている車はほとんどいなかった。俺達の前に2台停まっているだけだった。


他に今はバイクが4.5台。きっと小豆島にツーリングでも行くんだろうな。


一周が120キロ程度の小豆島は岡山からも60分程度な為、四国や中国地方に向かう中継地点としてや、日帰りツーリングやドライブの場としても人気がある。




「やっぱ風がないと暑いな」


窓を閉めるとゆき兄はエアコンのスイッチを入れた。


グォンとエンジンのアイドリングが少し高くなる音がする。




待合室があるフェリーターミナルの建物を見る。周辺や中には割と人々がいた。


徒歩で乗船する人は多いのかもしれない。


高松港フェリーターミナルはJRの高松駅から歩いて5分くらいの距離に存在していた。


駅前のJRホテルクレメンスの前から高架通路でつながっていて雨でも濡れずにフェリーターミナルに行くことも出来る。電車で訪れて、ここからフェリーに乗る人も多い。


昔はここから大阪にも行けたようだった。

高速道路や橋の開通によって昔より航路は減ったとは言え、

現在もフェリーの航路も多く、高速船やカーフェリーがこの高松港から瀬戸の島や岡山へ出港していた。




車に座って時間を待つのも飽きてきた俺は外を探索したくなってきた。


「なあゆき兄、まだ乗船まで時間あるし、なんか飲み物買ってこようか?」


「優しい弟やな。それじゃ俺はいつもの缶コーヒーを頼むわ」


ゆき兄から小銭を受け取ると俺は車から降りた。


途端にムワッとした夏の空気が俺の体を包み込んだ。




フェリーターミナルに入ると、そこは多くの人で賑わっていた。


備え付けられてるベンチはすでに満員で床に直接座っている人も多くいた。




大きな声があちこちで響いている。日本語以外の言葉も多く飛び交っていた。


俺と年が近い学生のグループの姿も見えた。


合宿とかでも行くのだろうか、ジャージを着た集団もいる。小さな子どもを連れた家族も何組もいる。




中を探索して時間を潰そうと思っていたけど、この人混みの中をうろつく事には気が引ける。




取り敢えず売店を探して移動した。


ちらっと見えた私服のグループに見知った顔があったような気がしたが、賑やかな声で何やら叫んでいた中国人グループに気を取られている間にどこかへ移動したようだった。




売店や、自販機ではゆき兄のコーヒーは見つからなかった。そもそも自販機で


見たことは無いような気がする。いつもゆき兄はどこで買ってんだろ。


俺は面倒になり、近くにあった自販機で適当に買って車へ戻った。


少し離れていた間に車の待機場には多くの車が連なって停まっていた。




「ほい、これ」


適当に買ったドリンクを渡す。


「おいおいなんで、みっくすじゅーちゅなんだよ!」


ゆき兄が不満の声を出す。


「めーーーちゃ探してんけど無かったんやから仕方ないやん」


「だからってこれはないだろうよ、別の銘柄のコーヒーにするとかさ…」


ぶつぶつ文句を言いながら、それでも飲むゆき兄だった。


「あれ…これ、けっこういけるかも…」




俺は助手席から手を伸ばしてカーステレオの電源を入れた。


スマホのアプリを立ち上げて、カーステレオとブルートゥースで接続する。


そして音楽を再生した。




車内に軽快な音楽と力の入りすぎていない心地よいボーカルの声が流れ出す。




【君を忘れない。曲がりくねった道を行く~生まれたての太陽と~夢を渡る黄色い砂】




運転席のゆき兄を見る。


ゆき兄もちらっと俺をみて、視線を再び前に戻した。


でもその口元は笑っている。


この曲は兄貴が好きな歌だ。よく部屋で仕事をしているときにこの曲をかけている。


車のハンドルを指で叩きながらリズムをとっていた。




窓を少し開けて空を見上げた。雲ひとつない、夏の青い空が広がっている。


その中を俺達が乗るフェリーが汽笛を上げながらゆっくりと近づいてきていた。




今日も暑くなりそうだった。








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