第25話 魔法使いと幻術使い ③
睡蓮沼のほとりに二人の少女がいる。
一人は魔王の娘。
もう一人は魔王の娘曰く、幻術使いと呼ばれる少女だ。
「それでね、教会のお庭で貴女を見かけたことがあるの!」
「…………。」
未だ一言も発さない少女に魔王の娘はめげることなく話しかけ続ける。
「でもちょっとおかしいな〜?なんでかな〜?って思って。でね、もしかしたらあの女の子は幻影なのかも……って皆で考えたんだ。幻術使いちゃん、教会でちょっとした有名人なんだよ!あの幻影術を使ってる子は一体誰なんだろう?って!」
それまで無表情だった少女は “幻影術” という言葉を聞いた瞬間、ビクッと体を動かした。
そして何かを発しようと口を開きかけたが、少女の口からは言葉が出てこない。
上手く伝えることができないのか、彼女の顔には困惑の表情が浮かんでいる。
「ねえ、貴女が教会のお庭にいた幻術使いちゃんなんだよね?どうして教会にいたの?……今の貴女の姿も幻影なの?」
「…………は……」
それまで黙っていた少女はやっと声を出した。
その声は小さすぎたが、魔王の娘は気にせず「うん」と相槌を打った。
「……わたしは、幻術使い」
魔王の娘の言う通り、少女は幻術使いだった。
魔王の娘は「やっぱり〜!」と喜んでいる。
「……どうして、幻影術だとわかった?」
幻術使いは少し動揺しているようだ。
「えーっと、私が魔王の娘だから何でもわかるんだよ!」
魔王の娘は今まで何度も言ってきたであろう台詞を当然のように発した。
「わたしの幻影術は完璧なはず……それなのにどうして……」
「だ、だから!私が魔王の娘だから……」
「私の幻影術は今まで誰にも見破られたことがなかった……のに」
幻術使いは再びその右手を伸ばした。
「えっ??ま、また!?」
空間が歪む。
見えていたものが消え、見えていなかったものが現れる。
地面は変形し雪崩のように魔王の娘の足元をさらっていく。
魔王の娘は白い杖を握り締め、力を解放しようとした。
「……っ!?」
一瞬、幻影の中に寂しそうに微笑む子どもの姿が見えた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます