第10話 契約

 「そうか。いいんじゃないか?」


 魔王の娘が握り締めている杖を見て、武器屋は頷いた。


 「じゃあ、試してみるね!」


 そう言うと魔王の娘は右手で杖を支え、語りかけた。




 魔法使いと杖の契約が始まる。


 「私は魔王の娘。貴方は私の杖(ワンド)になってくれますか?」


 魔王の娘が呟くと、杖は静かに白く光り始めた。


 その光を見て微笑んだ魔王の娘は、ゆっくりと目を閉じ、再び語りかけた。


 「ありがとう。それでは貴方に能力(ちから)を授けましょう」


 魔王の娘は杖を支えている右手に左手を添えた。


 すると、白い光はだんだんと大きくなっていき、魔王の娘の体を包み込んだ。




 「……すごい」


 一連の様子を側で見守っていたニートは、思わず呟いていた。


 「お前は初めて見たのか?」


 同じく隣にいた武器屋がニートに声をかけた。


 「うん。……考えてみたらボク、ちゃんと魔法を見たことがなかったな。凄いね、魔法使いって!」


 ニートは目の前で行われた魔法使いと杖の契約を見て、 かなり興奮したようだ。


 「そうだろ!魔法使いは凄いんだぞ〜!」


 武器屋も魔法を褒められて嬉しいようだ。


 「二人とも、契約終わったよ〜!」


 杖と契約を済ませた魔王の娘は、先程までの真剣な表情ではなく、いつもの笑顔に戻っていた。


 「おお、きっとそいつも喜んでるだろう。お嬢ちゃん、大事にしてやってくれ!」


 「もちろんだよ〜!この子はもうお友達なんだから!」


 そう言うと魔王の娘はもぞもぞと懐を探った。

 懐から出したのは、指揮棒くらいの長さの飾り気のない茶色い杖であった。


 魔法使いは基本、魔法使いになるときに、自分の杖を一本作ることになっている。

 王立魔法教会の魔法使いたちは、仕事で派遣される場合、自分の杖の他にもう一本、派遣先の武器屋で杖を新調することが決められている。


 「貴方たち、これから仲良くするんだよ!よろしくね!」


 二本の杖たちは、それぞれ白い光と青い光を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る