男でも魔法少女になれたけど、闇のゲームに参加させられるみたいなのは酷いよね?

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プロローグ


 実現不能でどうしようもない将来の夢をついつい見てしまうことって誰にでもあると思う。


 俺だって随分いろんな夢を捨ててきて大人になったんだ(とは言ってもまだ高校一年生だけど)。


 その中で俺の一番酷い夢ってなんだったかなと考えるとそれはダントツで、幼稚園の頃から小学三年生まで見ていたあの夢だ。



 それは魔法少女になることだった。



 時にステッキを使ってキラキラと光って空を飛び廻り、だけどステッキを置けば妙に現実的で生活感のある暮らしをする。そんなやつが街のトラブルをどんどん解決していく。


 悪い敵がやってきたらやはり魔法の力を使って世界を救うことができる。


 そんな魔法少女が俺の中では憧れの存在だったのだ。



 魔法少女とは、つまり魔法を使う少女のことである。


 当然俺は男だから魔法を使えたところで魔法使い、否、――魔法少年とでも言うべきか――にしかならないのである。


 だから魔法少女になるためには俺はまず女の子になる必要があるし、それに加えて魔法を使えないといけない。


 常識的に考えて到底ムリなことだ。


 だけど俺は小学三年生の時まで真剣に魔法少女を夢見ていたのだ。


 俺の幼稚園の頃のお絵かき帳を見ると、ほとんどが魔法少女についての絵で埋められている。


 日曜日の朝には親に起こされなくても戦う魔法少女のアニメを見るために絶対起きていたし、夕方に魔法少女系のアニメがやっているならば、それも欠かさずに観た。


 録画して何度も何度もその映像を脳裏に焼き付け、俺の基本形態は魔法少女によって形成されているのだ。


 魔法少女……この言葉はなんて甘美な響きを持っているのだろう。


 素晴らしすぎて女児も大きなお友だちも大歓迎だ。


 まあ俺が魔法少女を夢見た時は「男児」だったわけだから、どっちにも当てはまらないんだけどね。


 それはともかく、俺は幼稚園児の時お絵かき帳に魔法少女の変身シーンを何枚も何枚も飽きること無く描いていたものだった。


 テレビの中では一見普通の女の子がステッキを振りかざすことによって何故か突然不必要に全裸になり、ちゃんと大事な部分は見えないように謎の光を放ってその直後には魔法少女になっているという瞬間が俺は好きだった。だからそのシーンの絵をひらすら描いていた。


 それも全裸の場面を中心に描いていた! 今考えると凄い変態だよな、俺。


 でもみんなに安心して聞いて欲しい。


 俺の幼稚園児の頃に描いた絵はちゃんとアニメのように謎の光を放っていたし、その時からコンプライアンス的な配慮がなんであるかも理解していた大人びた子供だったのだ。


 ただ、異常なほどに魔法少女に憧れを持っていたことは今考えると少し恥ずかしい。


 しかも謎の光の当て具合はアニメよりもキワドイ。幼稚園児にして男心をわかってやがる。



 そんな俺が魔法少女を何故諦めたかと言うと、小学三年生の時に重大な発見をしてしまったことがきっかけだ。


 それは俺の下半身にはぶらぶらとした物体が常設されており、これを取り外すことはできない。それがあると魔法少女なんかにはなれるはずがないんだってことに気づいてしまったのだ。


 追い打ちをかけるように、小学六年生の時にはこの世の中には魔法なんてものは存在しないことに気付いた。魔法なんて便利なものが本当に存在するのであれば人がこんなにも不自由に生活する理由なんてないのだ。


 どこかの秘境で魔法を使える人間がいるんだったら、もっとこの世界を良くしやがれ糞野郎って思うからな。


 という感じで、恥ずかしくも魔法少女を結構長い間夢見ていた俺だが、何も少女になりたいという願望があったわけではない。


 ただ、魔法を使うために最適な職業として魔法少女を考えていただけなのさ。


 俺は少女にはなれない男だと自覚し、魔法がこの世に存在しないと発覚した以上は、もはや魔法少女になるなんてことを夢見るなんてのはできるわけがない。



 しかし! 今この時をもって、俺のこの考えを覆す大事件が起こりやがった。


 俺が魔法少女を夢見れない理由は、今ここで述べたような理由ではなくなってしまった。


 俺はもっと別の理由で夢を失ったのだ。それはプラス思考マイナス思考の二つで言えば、プラス思考に分類される形で俺の夢は夢では無くなったのだ。


 つまり「魔法少女」という存在は俺にとって夢というものとしてはもはや存在しない、そういうことだ。



 どういうことかって?



 だって、俺は魔法少女になってしまったのだ。


 叶ったんだよ、夢が。叶えば夢は夢じゃないよな。

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